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平成25年2月22日

東京医科歯科大学
Tel:03-5803-5011(広報掛)
科学技術振興機構(JST)
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アレルギーを抑える新たな仕組みを発見
~アレルギーの「火付け役」を「火消し役」に変換~

<ポイント>

JST 課題達成型基礎研究の一環として、東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 免疫アレルギー学分野の烏山 一 教授らの研究グループは、皮膚アレルギーにおいてアレルギーの「火付け役」を「火消し役」に変身させることで炎症を抑制して、アレルギーを終焉に向かわせる新たな仕組みを発見しました。

これまで、アレルギー性炎症を誘導・悪化させる仕組みに関して多くの研究が行われてきましたが、アレルギー性炎症を抑制・終了させる仕組みについては十分解析が進んでいませんでした。

本研究グループは、皮膚の慢性アレルギーで、白血球の一種である好塩基球注1)が「炎症を悪化させる細胞(炎症性単球注2))」を「炎症を抑える細胞(2型マクロファージ注3))」に変換することでアレルギー性炎症を抑制することを、モデルマウスを用いた実験から明らかにしました。この変換がうまくいかないと、炎症の抑制がかからず、皮膚のアレルギー性炎症が重症化・長期化しました。

本研究で発見されたアレルギーの「火付け役」を「火消し役」に変身させる仕組みを応用することで、アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患に対する新たな治療法の開発が進むものと期待されます。

本研究は、金沢大学 がん進展制御研究所の向田 直史 教授の協力を得て行われ、本研究成果は、2013年2月21日12時(米国東部時間)に国際科学誌「Immunity」のオンライン速報版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」
(研究総括:菅村 和夫 宮城県立病院機構 理事長)
研究代表者 烏山 一(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授)
研究期間 平成21年10月~平成27年3月

JSTはこの領域で、アレルギー疾患や自己免疫疾患を中心とするヒトの免疫疾患を予防・診断・治療することを目的に、免疫システムを適正に機能させる基盤技術の構築を目指しています。

上記研究課題では、「好塩基球」並びに「高IgE症候群」に関するアレルギー研究の成果を基盤として、従来とは異なるアプローチで、新たなアレルギー発症機構やその制御機構を分子レベル、細胞レベル、個体レベルで解明し、新規アレルギー治療法開発の基盤技術の確立を目指します。

<研究の背景と経緯>

近年、先進諸国においてアレルギー患者数が年々増加し、日本でも人口の3割近くを悩ます国民的な病気としてアレルギーが大きな社会問題となっています。しかし、アトピー性皮膚炎やぜんそくに代表される重篤なアレルギー疾患に関しては、発症・悪化のメカニズムなどを含め、根本的治療に向けた病態解明はまだ十分に進んでいません。

本研究グループはこれまでに、アトピー性皮膚炎の病態解明と新たな治療標的の探索を目的として、アトピー性皮膚炎に類似した慢性皮膚アレルギー炎症のモデルマウスを開発し、抗体の一種であるIgEと白血球の一種である好塩基球がアレルギーの発症に深く関わっていることを明らかにしてきました。この慢性皮膚アレルギーモデルでは、好塩基球のほかにさまざまな種類の白血球が皮膚の炎症部位に集まっていますが、それぞれがアレルギー性炎症においてどのような役割を果たしているのかが、よく分かっていませんでした。

<研究の内容>

本研究グループは、慢性皮膚アレルギー炎症のモデルマウスで炎症部位に集まっている白血球を調べたところ、そのうち半数近くがマクロファージであることを見いだしました。これらは血中を循環している炎症性単球に由来し、血中から皮膚に浸み出した単球が、マクロファージへと分化することが分かりました(図1)。このマクロファージの特徴を詳しく調べたところ、マクロファージの中でも2型マクロファージと呼ばれるものであることが明らかとなりました。炎症性単球は、その名が示す通り炎症を引き起こす細胞とされ、これまで炎症の誘導・悪化に関与すると考えられてきました。2型マクロファージもアレルギー炎症の誘導・悪化に寄与すると報告されていましたので、当初はこれらの細胞がアレルギー炎症の誘導に深く関わっていると予想しました。ところが、この炎症性単球が皮膚内に浸み出せないように遺伝子を操作したCCR2欠損マウス注4)では、予想に反して、炎症が軽快するのではなく、かえって悪化・長期化してしまいました。そこで、正常マウス由来の炎症性単球をこのCCR2欠損マウスに注射すると、炎症性単球が皮膚アレルギー炎症部位に浸み出して2型マクロファージへと成熟する結果、ひどかった炎症を抑えることを発見しました(図2)。さらなる解析から、好塩基球が産生するサイトカインの1つであるインターロイキン4(IL-4)が、皮膚に浸み出してきた炎症性単球に作用して、2型マクロファージへと変化させることも明らかとなりました(図1)。

以上のように、本研究では、炎症性単球が血中から皮膚に浸み出した後に、好塩基球の産生するIL-4の影響を受けて2型マクロファージへと変化することで炎症を抑制させる能力を獲得して、アレルギー性炎症を抑え、アレルギーを終焉に向かわせるという新事実を世界に先駆けて発見しました。これまで、2型マクロファージの生い立ちに関しては、常在性単球からの生成経路と組織常在マクロファージからの生成経路の2つが知られていましたが、本研究で炎症性単球からの生成経路が存在することが判明するとともに、炎症性単球由来の2型マクロファージがアレルギーを抑制することが明らかとなりました(図3)。

<今後の展開>

本研究で、「アレルギー性炎症を悪化させる細胞(炎症性単球)」を「アレルギー性炎症を抑える細胞(2型マクロファージ)」に変換できることが明らかとなりました。この変換のメカニズムと2型マクロファージによる炎症抑制に関わる分子群を探索することで、アレルギーに対する新たな治療標的が見つかり、新しいタイプの治療法の開発が進むものと期待されます。

<参考図>

図1

図1 アレルギーの火付け役(炎症性単球)から火消し役(2型マクロファージ)への変換

血中から皮膚に浸潤してきた炎症性単球は、好塩基球の産生するIL-4の作用を受けて2型マクロファージへと変化し、アレルギー炎症を抑制し、アレルギーを終焉に向かわせます。

図2

図2 炎症性単球がアレルギー炎症を抑制する~炎症の火付け役が火消し役に変化する

炎症性単球が皮膚内に浸み出せないCCR2欠損マウスでは、皮膚アレルギー炎症が悪化して皮膚の腫れがひどくなりますが、CCR2欠損マウスに正常マウス由来の炎症性単球を注射すると、炎症性単球が皮膚内に入り込んで2型マクロファージに成熟する結果、アレルギー性炎症を抑制して、皮膚の腫れが緩和しました。

図3

図3 2型マクロファージ生成の第3経路の発見

これまで、炎症性単球から1型マクロファージへの分化経路はよく知られていましたが、2型マクロファージの生成経路に関しては不明な点が多く残されていました。これまでに、常在性単球からの分化経路と常在性マクロファージからの生成経路が存在することが報告されていましたが、今回の研究で、炎症性単球から2型マクロファージが生成するという新たな経路が発見されました。

<用語解説>

注1) 好塩基球
血中を流れる白血球の約0.5%を占めるに過ぎない極少血球細胞。長年その存在意義が不明でしたが、最近の研究によりアレルギーの発症や寄生虫に対する生体防御に重要な働きをしていることが次第に分かってきました。
注2) 単球
血中を流れる白血球の1つで、皮膚などの末梢組織に入った後にマクロファージ(注3参照)や樹状細胞へと分化し、末梢組織での免疫反応に関わります。
注3) マクロファージ
1型と2型に大別され、前者は結核など細胞内寄生細菌の排除に、後者は寄生虫の排除や組織修復に重要な働きをしているといわれています。
注4) CCR2欠損マウス
ケモカイン受容体CCR2の遺伝子を欠損したマウスで、炎症性単球の遊走に必要なCCR2を持たないため、このマウスでは炎症性単球の末梢組織への浸潤が起こりません。

<論文タイトル>

“Inflammatory monocytes recruited to allergic skin acquire an anti-inflammatory M2 phenotype via basophil-derived interleukin-4”
(皮膚アレルギー病巣に浸潤してきた炎症性単球は、好塩基球由来のインターロイキン4の作用により炎症抑制能力を獲得する)
doi: 10.1016/j.immuni.2012.11.014

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

烏山 一(カラスヤマ ハジメ)
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 教授
〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45
Tel:03-5803-5162 Fax:03-3814-7172
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

石正 茂(イシマサ シゲル)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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<報道担当>

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(英文)Identification of a novel mechanism by which allergic inflammation is dampened
—Converting immune cells from being proinflammatory to anti-inflammatory—