JSTとNSF注1)は低炭素社会の実現に寄与することを目指し、新しい日米共同研究支援プログラム注2)にて植物および微生物に関する共同研究課題を4件採択しました。
平成23年11月7日
科学技術振興機構(JST)
米国国立科学財団(NSF)
JSTとNSF注1)は低炭素社会の実現に寄与することを目指し、新しい日米共同研究支援プログラム注2)にて植物および微生物に関する共同研究課題を4件採択しました。
4つの日米共同研究チームは、合計約9.6億円(約1,200万ドル)の研究資金を得て、再利用可能なバイオ燃料の増産や殺虫剤の使用削減に資する、代謝産物の研究に基づいた環境に優しい新技術を開発します。代謝産物とは、全ての生細胞で作り出され、植物の病虫害耐性や光合成藻類によるバイオ燃料生産能力を含む、生命維持に重要であるさまざまな生物学的プロセスにおいて不可欠な化学物質です。
植物にはそれぞれ10,000から15,000の代謝産物がありますが、現在の研究において、同定し機能が調査されている代謝産物はその中のほんの一部に過ぎません。しかし、これらの極めて重要な化合物を同定し機能を調べる技術を改良することで、バイオ燃料の生産拡大や殺虫剤の削減につながる、全く新しいブレークスルーをもたらすことが可能となります。
今回採択された4つの研究課題は、バイオ燃料の増産や殺虫剤の使用を削減できる可能性だけでなく、“メタボロミクス分野全体が必要とする” 生物の代謝産物全てに関する研究を進展させる可能性をも秘めている重要な研究課題です。メタボロミクスは環境科学、合成生物学、医薬、植物・藻類・微生物システムの予測モデリングを含む多様な分野で優れた用途を持っています。
今回採択された共同研究課題は、「低炭素社会のためのメタボロミクス」をテーマとしたJSTとNSFの全面的な連携により共同で実施された初めての公募となります。また、研究期間は3年間ですが、3年目に行う評価によりさらに2年間延長される可能性があります。
低炭素社会の実現を目指すこのプログラムでは日米の技術的な知見と研究設備が十分に活用されるとともに、両国の科学者の共同研究が促進されることを目的としています。そのため、JSTとNSFは日米研究者が少なくとも1名ずつ研究に参加することを応募要件とし、また、全ての提案の審査をJSTとNSFが共同で行いました。
スブラ・スレシュNSF長官は「このプログラムに採択されたプロジェクトでは、双方の専門性や革新的なアイディアを互いに補い合うという恩恵を受けるようになるでしょう。これこそが国際共同研究の優れた点なのです。今回の共同研究課題では特に、メタボロミクス分野を新しいレベルに引き上げ、環境への重要な利益をもたらすような最先端の成果が期待されます。」と述べています。
中村JST理事長は「本共同研究プログラムの目標はエネルギーと環境分野におけるメタボロミクスの新規の生物学的知識を発展させることにあります。日本と米国の科学者の協力により、ライフサイエンスの最先端の研究分野であるメタボロミクスの研究基盤が強化され、低炭素社会の実現に大きな貢献をもたらすことが期待されます。」と述べています。
今回採択された4課題は、太平洋を越えた研究協力のもと、それぞれが独自の研究目標を掲げ、メタボロミクスの全ての用途に関わるさまざまな課題に挑戦するものです。より多くの代謝産物の同定や、生物種ごとの代謝産物の総合データベース構築などのより柔軟で優れた基盤開発など、喫緊に必要とされる課題への挑戦により、メタボロミクス分野全体に大きな進歩をもたらすことが期待されます。
採択された4課題の研究概要は次の通りです。
研究代表者 | 研究概要 | ||
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1 | 日本側 研究代表者 |
東京大学 有田 正規 准教授 |
本研究ではバイオ燃料を生産する光合成藻類の代謝産物を同定する手法の改良を目指す。代謝産物の情報はバイオ燃料の増産を考える上で必要である。 研究内容には質量分析(分子の質量を推定する手法)技術の改善および研究者コミュニティーが自由にアクセスできる質量分析に関する新規統合データベースの開発が含まれる。(図1) |
米国側 研究代表者 |
カリフォルニア大学 デービス校 オリバー・フィーン 教授 |
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2 | 日本側 研究代表者 |
大阪大学 福崎 英一郎 教授 |
ブタノールは自動車用燃料として有望であり、微生物や酵母を用いた醗酵プロセスにより製造可能である。 本研究を通して細菌や酵母の包括的代謝解析とコンピューターモデリングを行い、得られた情報を利用して光合成細菌の遺伝子を改変し、ブタノール生産性の最適化を目指す。(図2) |
米国側 研究代表者 |
カリフォルニア大学 ロサンゼルス校 ジェームズ・リャオ 教授 |
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3 | 日本側 研究代表者 |
京都大学 奥本 裕 教授 |
農業生産性の30%近くが害虫および病害で失われており、またトラクターが畑に殺虫剤を撒くたびに生産コストが上昇する。 本研究は、植物の自然な病害耐性を解明する技術を開発することにより、そのような生産性の損失および生産コストの削減に貢献する。 本研究の一環として、病害虫の植物攻撃を阻止する保護的代謝産物やこれらの代謝産物の遺伝子の同定を行う。(図3) |
米国側 研究代表者 |
ボイス・トムプソン植物科学研究所 グレッグ・ジャンダー 次席研究員 |
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4 | 日本側 研究代表者 |
理化学研究所 植物科学研究センター 斉藤 和季 副センター長 |
本研究では、先端機器を活用して、バイオマスや植物の油生産に関与する重要な代謝産物が何であるか同定し、その特性を解明することを目指す。また、植物の細胞壁や油分の合成に影響を与える遺伝子レベルでの変化など、代謝産物の広範囲な効果について解明することを目指す。本研究の進展により、植物の細胞壁材料の発酵性の改善、エネルギーに富む植物油の生産に貢献することに加え、ほかのメタボロミクス研究に研究資源を提供することが期待される。(図4) |
米国側 研究代表者 |
サミュエル・ロバーツ・ノーベル財団 ロイド・W・サムナー 教授 |
カリフォルニア大学 デービス校 バンダーガイスト研究室にて、培養された藻類を反応器の中で育成し、異なる環境条件のもとで、成長過程の藻が消費する二酸化炭素の量の変動を計測しています。この研究は有田/フィーンチームが行う光合成藻類のバイオ燃料生産能力の改良に貢献します。
福崎/リャオチームのプロジェクトの一環として研究される光合成細菌の一種。この細菌はブタノール生産の増加に貢献します。
トウモロコシの実に細菌感染で起こされた損傷とオオタバコガの幼虫。病害虫と病気を引き起こす菌類との組み合わせにより、いかに収穫が重大な低下をもたらすかに注目し、奥本/ジャンダーチームは植物の病気と戦う自然薬品を特定するために、メタボロミクス技術を使用します。
米国オクラホマ州アードモアにあるサムエル・ロバーツ・ノーベル財団の温室にて、タルウマゴヤシと呼ばれる植物が育成されています。斉藤/サムナーチームは植物のバイオマスおよび油脂生産量に関する代謝産物を同定し、機能を調べる予定です。
科学技術振興機構 国際科学技術部
大井 満彦(オオイ ミツヒコ)、中島 英夫(ナカジマ ヒデオ)
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