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平成23年5月16日

九州大学
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科学技術振興機構(JST)
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ブラシ状高分子を用いた環境に優しい接着の自在制御に成功

高原 淳 九州大学先導物質化学研究所 教授と、小林 元康 科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究「高原ソフト界面プロジェクト」 グループリーダーは、材料表面にナノメートルオーダーの厚みを持つ歯ブラシ状の構造を作製し、水を挟んで貼り合わせるだけで繰り返し接着と剥離を行うことができる新しい低環境負荷型の接着法を発表しました。

本成果は、2011年5月16日(ロンドン時間)に英国王立化学協会出版の科学雑誌「ソフトマター」のオンライン速報版で公開される予定です。

<背景>

JSTが推進する戦略的創造研究推進事業 ERATO型研究では、2008年に高原教授の研究提案を採択し、「高原ソフト界面プロジェクト」をスタートしました。我々の身の回りにある柔らかい材料(ソフトマテリアル)の界面(インターフェース)の化学的特性、動的特性、表面ナノ/ミクロ形態を分析し、新規なソフトインターフェースを創製することを目的としています。今回は、そのプロジェクトの中でナノテクノロジーを生かした新しい接着法が提案されました。特に異種材料同士の接着に貢献が期待されています。

<内容>

今回開発した接着技術は、材料表面に長さ数十から数百nm(ナノは10億分の1)のひも状の分子(ポリマー)を歯ブラシのように生やすことで達成されました。材料表面から化学反応によって多数の小さな分子を連結させ、ポリマーを密集して生長させることで、厚み約100nmのブラシが得られます。このポリマーにはスルホン酸やアンモニウム塩が結合しています。このようにして、正の電荷(カチオン)を持つポリマー、および負の電荷(アニオン)を持つポリマーを生やした基板を用意します。この2枚の基板の間に水を1滴加えて貼り合わせると、プラスとマイナスのイオンが引き合う静電相互作用によって2つの材料が接着されます。現在、接着面積が1cmのとき、約15Kgの荷物をつり下げることができます。この基板は水中に24時間漬けても剥がれることはなく、耐久性に富んだ接着法であることも確認しています。一方、接着された基板を塩水に漬け静電相互作用を断ち切ると、これらは容易に剥がれますが、両基板を水で洗って再度貼り合わせると再び接着します。

このナノメートル厚のブラシは、ガラスや金属、ポリプロピレンなどの合成樹脂など基板の種類に関わらず作ることができるため、これまで比較的難しかった異種材料同士の接着にも利用できます。

<効果>

金属と合成樹脂との接着など従来の接着剤が苦手とする異種材料間の接着に有用な方法として期待されます。特に、水を使って貼り合わせるだけで繰り返し接着と剥離を行うことができる点は、医用材料や医療用デバイスに代表される機能性デバイス製造過程など有機溶剤が使用できない環境で活用できると期待されます。

<今後の展開>

本成果は、ロンドン時間2011年5月16日正午(日本時間16日午後8時)に英国王立化学協会出版の科学雑誌「ソフトマター」のオンライン速報版で公開される予定です。ポリマーの化学構造やブラシの形状を工夫することでさらなる接着強度の増大が見込まれ、自動車部品などの接着にも応用が期待されます。また、より大面積で大量生産できる技術の確立を目指して研究を進める予定です。

本研究は、ソフトインターフェースの設計・制御指針を確立し、空気中、水中などさまざまな環境の中で潤滑性、耐摩耗性、生体適合性、接着性などの高度な機能を発揮する材料を創成する技術の確立を目指すもので、この成果は、戦略目標「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」に資するものと期待されます。

<参考図>

図1

図1 厚さ約100nmのポリアニオンとポリカチオンの分子ブラシによる接着の概念図

左の写真は、面積5×10mmで接着した基板に5.0kgのダンベルをつり下げている様子を示している。

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

高原 淳(タカハラ アツシ)
九州大学先導物質化学研究所 教授
Tel:092-802-2517 Fax:092-802-2518
E-mail:

<JSTの事業に関すること>

金子 博之(カネコ ヒロユキ)
科学技術振興機構 イノベーション推進本部 研究プロジェクト推進部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
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