<本研究成果のポイント>
○35疾患の日本人患者集団それぞれ約200人から得た20万カ所のSNP遺伝子型頻度情報を収録
○疾患ごとのSNP頻度情報と日本人の標準的なSNP頻度情報との比較が可能に
本研究成果は、文部科学省リーディングプロジェクト「オーダーメイド医療実現化プロジェクト※2)」においてバイオバンクジャパン(国立大学法人東京大学医科学研究所内)に収集された35疾患の日本人患者集団それぞれ191~195人分のDNAサンプルについて理研ゲノム医科学研究センター(2008年4月に「遺伝子多型研究センター」から改称)が解析を行ったものです。
病気のかかりやすさや薬による副作用の有無と遺伝子の関係を調べる場合、通常、病気や薬の副作用のある人(患者)とない人(対照者)について、ゲノム全体あるいは目的の遺伝子上にあるSNP※3)を測定し、その頻度を比べて遺伝子と病気や薬の副作用との関係を検討します。
今回、35疾患の日本人患者集団のSNP頻度情報を公開することにより、研究グループが同データベースを通じて2007年10月から公開している日本人一般集団における標準的なSNPの頻度情報と比べることも可能となり、病気や薬の副作用と関係する遺伝子が次々と特定されることが期待されます。
本研究は、理研ゲノム医科学研究センターと東京大学医科学研究所が共同で行ったものです。本データベースは、2008年6月12日(木)午前10時より、下記URLにて公開します。
JSNPデータベース URL:http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html
1.背景
病気のかかりやすさや薬の副作用の有無と遺伝子の関係を調べる場合、一般的に病気や薬の副作用を持つ集団(患者集団)と持たない集団(対照集団)について、遺伝子上のマーカーであるSNPを測定し、その頻度を比較する手法が行われています。SNP頻度情報は、病気や副作用と遺伝子の関係を解明し、個人に合った投薬や治療を行うオーダーメイド医療を目指した研究の基盤情報として非常に有用です。
理研 ゲノム医科学研究センターは、ゲノム全体を網羅するSNP解析の手法を確立し、これまでに、心筋梗塞、関節リウマチ、変形性関節症、糖尿病性腎症などをはじめとした数多くの疾患に関連する遺伝子を特定してきました。また、近年、欧米の機関においても全ゲノムSNP解析による疾患関連遺伝子研究が急速に進んできており、このような状況を踏まえ、日本人の病気や薬の副作用に関連する遺伝子の探索を進めていく上で、日本人のSNP頻度情報の必要性が高まっています。
2.研究成果
今回公開するのは、文部科学省リーディングプロジェクト「オーダーメイド医療実現化プロジェクト(http://www.biobankjp.org/)」において東京大学医科学研究所に設置したバイオバンクジャパン(the Biobank Japan)に収集された35疾患の日本人患者集団それぞれ191~195人から得た、常染色体上に存在するおよそ20万SNPの遺伝子型頻度情報(データセット)です。個人ごとの遺伝子型情報は公開していません。これらのデータセットを、今回、JSTが東京大学と共同で管理運営しているJSNPデータベースを通じて国内外の研究者に広く公開することとしました。
今回の対象の35疾患は、以下のとおりです。
【悪性腫瘍】
肺がん、乳がん、胃がん、大腸・直腸がん、前立腺がん
【心血管系疾患】
心不全、心筋梗塞、不安定狭心症、安定狭心症、不整脈、閉塞性動脈硬化症
【脳血管障害】
脳梗塞、脳動脈瘤
【呼吸器疾患】
間質性肺炎・肺繊維症、肺気腫、気管支喘息
【慢性肝疾患】
C型慢性肝炎、肝硬変
【眼疾患】
白内障、緑内障
【その他の疾患】
てんかん、歯周病、尿路結石症、ネフローゼ症候群、子宮筋腫、子宮内膜症、骨粗鬆症、関節リウマチ、筋萎縮性側索硬化症、花粉症、アトピー性皮膚炎、過敏性症候群(薬疹)、高脂血症、糖尿病、バセドウ病
独立行政法人 理化学研究所 ゲノム医科学研究センター センター長
Tel:03-5499-5372 Fax:03-5499-5433
独立行政法人 科学技術振興機構 研究基盤情報部 バイオインフォマティクス課
Tel:03-5214-8491 Fax:03-5214-8470
独立行政法人 理化学研究所 広報室 報道担当
独立行政法人 科学技術振興機構 広報・ポータル部 広報課
※1 JSNPデータベース
日本人の19万7,000カ所の一塩基多型(SNPs)データにアノテーションデータ(遺伝子情報、位置情報、アミノ酸置換情報など)を付加して、ウェブサ イト上で公開しているデータベース。JSTと東京大学医科学研究所が共同で運営。遺伝子単位の検索結果表示には、国内外の12の多型関連情報データベースへのリンク情報も提供している。
URL:http://snp.ims.u-tokyo.ac.jp/index_ja.html
※2 オーダーメイド医療実現化プロジェクト
文部科学省リーディングプロジェクトとして2003年から開始したプロジェクト。遺伝暗号の違いをもとに病気の原因、副作用の原因などを明らかにして、新しい治療薬や診断薬を開発するためのプロジェクトであり、理研ゲノム医科学研究センターは中核機関として遺伝子解析の中心的な役割を果たしている。
※3 SNP
Single Nucleotide Polymorphism(一塩基多型)の略。ゲノム上の塩基配列の中で人種や個人(例えば健康な人と病気の人)間で異なっている塩基のこと。