ポイント
研究の背景と経緯
緑内障は「眼の成人病」といわれ、わが国で最大の、そして世界でも第2位の失明原因です。最近のわが国の調査で緑内障は40歳以上の約5%に発症し、潜在患者数は400万人とも推定されていますが、高齢化の進行と共に、今後さらなる患者数の増加が予想されています。本症には眼圧が高値を示すものと、眼圧が正常範囲内にある正常眼圧緑内障がありますが、わが国では約70%が正常眼圧緑内障で占められています。正常眼圧緑内障にはこれまで疾患モデル動物がなく、発症原因の解明や治療法の開発が困難となっていました。
研究の内容
グルタミン酸は眼において光の情報を脳に伝える重要な伝達物質ですが、過剰に存在すると神経細胞に傷害をもたらすことが知られています。細胞外のグルタミン酸濃度はグルタミン酸輸送体により厳密に制御されています。グルタミン酸輸送体の遺伝子を欠損したマウスの眼を調べたところ、眼圧は正常であるにもかかわらず、網膜神経節細胞が加齢に伴い変性し、視神経乳頭陥凹、視覚機能異常が起こることを発見しました。これらの異常は、ヒトの正常眼圧緑内障において認められる所見と一致しており、正常眼圧緑内障のモデルマウスの確立に世界で初めて成功しました。さらに、グルタミン酸受容体の阻害剤であるメマンチンをこのマウスに投与することにより、網膜神経節細胞の変性を抑制できることを見いだしました。
発見の意義
正常眼圧緑内障のモデルマウスの解析結果と患者の解析結果とを比較検討することにより、正常眼圧緑内障の発症機構の解明に役立つと考えられます。また、グルタミン酸輸送体の活性を制御することによる、正常眼圧緑内障に対する新しい治療法の開発が期待されます。さらに、本モデルマウスは、正常眼圧緑内障の新規治療薬の開発および治療効果の判定に有用です。
問い合わせ先
東京医科歯科大学大学院疾患生命科学研究部分子神経科学
田中 光一(たなかこういち)
TEL:03-5803-5846 FAX:03-5803-5843
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