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平成19年6月22日

東京医科歯科大学
東京都神経科学総合研究所
科学技術振興機構

「グルタミン酸の代謝異常が正常眼圧緑内障を引き起こす」

-正常眼圧緑内障の治療に道筋-

ポイント

○ グルタミン酸を回収する輸送体を破壊したマウスの眼は、眼圧(眼球内の圧力)が正常であるにもかかわらず、ヒト正常眼圧緑内障と同様な視神経の萎縮と視覚機能の障害が観察されました。
○ このマウスは、世界で初めての正常眼圧緑内障のモデル動物であり、正常眼圧緑内障の病態解明や治療法の開発に役立つことが期待されます。
 東京医科歯科大学大学院疾患生命科学研究部の田中光一教授は、東京都神経科学総合研究所の原田高幸部門長、東京大学、および京都大学等との共同研究によって、グルタミン酸を回収する輸送体(グルタミン酸輸送体)を破壊したマウスの眼を解析したところ、眼圧が正常であるにもかかわらず、ヒト緑内障と同様の視神経の萎縮と、視覚機能の障害が確認されました。このマウスは世界で初めての正常眼圧緑内障のモデル動物として、今後の病態解明や治療法の開発に役立つことが期待されます。この成果は、独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「タイムシグナルと制御」研究領域(研究総括:永井克孝)における研究課題「神経幹細胞の分化過程と神経回路網の再構築」(研究者:田中光一、平成15年9月終了)の一環として行われたもので、成果の詳細は米国の医学雑誌「Journal of Clinical Investigation」に、2007年6月21日付(米国時間)オンライン版にて一般公開されます。

研究の背景と経緯

 緑内障は「眼の成人病」といわれ、わが国で最大の、そして世界でも第2位の失明原因です。最近のわが国の調査で緑内障は40歳以上の約5%に発症し、潜在患者数は400万人とも推定されていますが、高齢化の進行と共に、今後さらなる患者数の増加が予想されています。本症には眼圧が高値を示すものと、眼圧が正常範囲内にある正常眼圧緑内障がありますが、わが国では約70%が正常眼圧緑内障で占められています。正常眼圧緑内障にはこれまで疾患モデル動物がなく、発症原因の解明や治療法の開発が困難となっていました。

研究の内容

 グルタミン酸は眼において光の情報を脳に伝える重要な伝達物質ですが、過剰に存在すると神経細胞に傷害をもたらすことが知られています。細胞外のグルタミン酸濃度はグルタミン酸輸送体により厳密に制御されています。グルタミン酸輸送体の遺伝子を欠損したマウスの眼を調べたところ、眼圧は正常であるにもかかわらず、網膜神経節細胞が加齢に伴い変性し、視神経乳頭陥凹、視覚機能異常が起こることを発見しました。これらの異常は、ヒトの正常眼圧緑内障において認められる所見と一致しており、正常眼圧緑内障のモデルマウスの確立に世界で初めて成功しました。さらに、グルタミン酸受容体の阻害剤であるメマンチンをこのマウスに投与することにより、網膜神経節細胞の変性を抑制できることを見いだしました。

発見の意義

 正常眼圧緑内障のモデルマウスの解析結果と患者の解析結果とを比較検討することにより、正常眼圧緑内障の発症機構の解明に役立つと考えられます。また、グルタミン酸輸送体の活性を制御することによる、正常眼圧緑内障に対する新しい治療法の開発が期待されます。さらに、本モデルマウスは、正常眼圧緑内障の新規治療薬の開発および治療効果の判定に有用です。

問い合わせ先

東京医科歯科大学大学院疾患生命科学研究部分子神経科学
田中 光一(たなかこういち)
TEL:03-5803-5846 FAX:03-5803-5843
E-mail: