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【用語の説明】

*1ゲノム機能: 近年、ヒトを含め幾つかのゲノム(生物の設計図)の完全な配列が決定された。この設計図から生物個体を作り上げるのに関係する機能を総合してゲノム機能という。これはゲノムに含まれる遺伝子の機能と、それら遺伝子の使い方の両方を含んだ概念である。
*2レトロトランスポゾン(レトロウィルスとの関係): 細胞内を動き回る動く遺伝子をトランスポゾンというが、これにはDNAで複製するDNA型とRNAから逆転写でDNAを作るRNA型の2種類があり、後者をレトロトランスポゾンという。レトロトランスポゾンの中にも色々な種類があるが、今回の話しに出てくるLTR型のレトロトランスポゾンは、エイズや白血病等の原因となるレトロウィルスと非常に似た構造をもっている。すなわちレトロウィルスはRNAを鋳型にしてDNAを逆転写し、感染細胞のゲノムに入り込む性質をもったウィルスである。レトロトランスポゾンは細胞外に出て感染する能力はないが、ゲノム中に元の遺伝子を残しながらコピーが他の場所に入り込むため、ゲノム中に蓄積して行く。ゲノム解析の結果、哺乳類のゲノムの1/3はレトロトランスポゾン由来のDNAの残骸からなっていることが明らかになっている。
*3インプリンティング遺伝子: 哺乳類では父親・母親に由来するゲノムは個体発生において異なる機能を果たしている。そのため哺乳類では母親由来のゲノムのみをもつ雌性単為発生胚や父親由来のゲノムのみをもつ雄性発生胚は生まれない(図4)。
このようにゲノムが由来した親の性別を記憶していることをゲノムインプリンティングとよぶ。これは父親由来のゲノムからのみ発現する遺伝子群(paternally expressed genes: Peg)と母親由来のゲノムからのみ発現する遺伝子群(maternally expressed genes: Meg)という特殊な遺伝子が存在しているために引き起こされる現象であるが、高等動物では哺乳類に特異的に見られる。
*4Peg10(paternally expressed 10): 父親性発現を示すインプリンティング遺伝子の一つで、マウス染色体6番の近位部のインプリンティング領域にマップされる。この領域の母親性2倍体は初期胚致死となるが、今回の実験はPeg10の発現の欠損が、この初期胚致死の主原因であることを明らかにしたものである。また、母親由来のゲノムのみをもつ雌性単為発生胚が初期胚致死になる主要原因遺伝子の一つと考えられる。この遺伝子はレトロトランスポゾンに由来するものであり、哺乳類にのみ存在する遺伝子である。ちなみにヒトPeg10は染色体7番に存在している。
*5胎生: 子供が卵から孵る卵生に対して、子供を母親の体内で育て出産する発生の様式で、哺乳類(正確には、ヒト、マウス等の真獣類とカンガルー等の有袋類)に特異的な生殖機能である(哺乳類でもカモノハシ等の単孔類は卵生である)。