平成17年5月25日

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発光素子の飛躍的な効率向上に向けて

-その基本原理の実証に成功-

 JST(理事長:沖村憲樹)と京都大学(総長:尾池和夫)の研究チームは、「不要な発光を一切禁止し、投入したエネルギーを必要な発光にのみ利用する」という発光素子の高性能化のための最も直接的かつ基本となる原理の実証に成功した。この成果は、発光素子全般の高効率化に寄与し、ディスプレイ、照明、情報、通信など、発光素子が応用される様々な分野の発展に貢献できるものと期待される。

 本成果はJST戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)「電子・光子等の機能制御」研究領域(研究総括:菅野卓雄 東洋大学理事長)における研究テーマ「フォトニック結晶における究極の光制御と新機能デバイス」および、文部科学省プログラムにおける研究において、野田進(京都大学大学院工学研究科電子工学専攻 教授)、および冨士田誠之(同研究員)らによって得られたもので、2005年5月27日付の米国科学誌「サイエンス」で発表される。

<研究概要>

 現在、発光素子の1つである発光ダイオードは、白熱灯や蛍光灯に代わる次世代固体照明の本命などとして大いに注目されている。しかしながら、発光ダイオードのもつ最大の問題点は、発光体から発せられた光の多くが、外部へ取り出されることなく、そのまま発光体内部に留まり、やがて熱に換わってしまうこと、つまり「不要な発光」となってしまっていることにある。
 今回、研究チームは周期的な屈折率分布をもつフォトニック結晶構造を発光体に形成することにより、上記の「不要な発光」を原理的に禁止した。その結果、「不要な発光」に浪費されていたエネルギーが、今度は、外部へと取り出される「有用な発光」のために利用されることが判明し、発光素子の高性能化のための最も基本となる原理が実証された。
 今回の成果は、発光ダイオードのみならず、レーザや有機発光素子など、発光素子全般の高効率化に寄与し、ディスプレイ、照明、情報、通信など、発光素子が応用される様々な分野の発展に貢献できるものと期待される。

<成果の具体的な説明>

 発光体(図1(A)に模式図を示す)から発せられた光の多くは、図1(B)に示されるように、発光体自身の中に閉じこめられたままとなり、「不要な発光」となる。これは、一般に発光体の屈折率が高いことと、光が屈折率の高いところに閉じ込められやすいという性質によるものである(注1)。従って、わずかな光しか発光体の外部へと取り出されず、結果として「有用な発光」が十分には得られないことになる。このことが発光素子の効率(注2)を悪化させる原因となっている。本研究の狙いは、このような「不要な発光」を根本から禁止し、発光体に与えたエネルギーを、「有用な発光」のみに利用し、効率の増大を目指すものである。
 図1(B)に示されるように、「不要な発光」は、発光体の面内方向へ発せられるため、この面内方向への発光を禁止することがポイントとなる。研究チームは、周期的な屈折率分布をもつフォトニック結晶(注3)が、ある特定の波長域の光の存在を禁止するという性質に着目し、発光体へ2次元的な周期構造をもつフォトニック結晶を導入した。図2には実際に作製した試料の電子顕微鏡写真が示されている。まず、実験結果を述べる前に、理論的に期待される効果を、図3を用いて説明する。 同図には、(A)通常の発光体の場合と、(B)フォトニック結晶構造をもつ発光体の場合の、それぞれに対し、外部からエネルギーを与えた際に、そのエネルギーが時間とともにどのように消費され、発光がどのように起こるかを示している。通常の発光体の場合は、同図(A)に示されるように、発光体に与えたエネルギーの大部分が、「不要な発光」に使われ、短時間でなくなっていく。結果として、外部へと取り出される「有用な発光」の総量は、非常に少なくなる。 一方、フォトニック結晶を発光体に導入した場合は、同図(B)に示すように、面内方向への発光が禁止され、その結果、与えたエネルギーが、「不要な発光」に使われることなく、ゆっくりではあるが(注4)、着実に「有用な発光」に使われ、発光体外部へと放射されていくことになる。つまり、フォトニック結晶を形成した発光体の場合は、与えたエネルギーが、最終的に全て、外部へと取り出されるために、発光効率は非常に高くなる。
 図4に実験結果を示す。様々な周期をもつフォトニック結晶を用意し、発光体の発光波長が、フォトニック結晶の発光禁止波長域(図4(A)に水色で示されているフォトニックバンドギャップ波長域)に入る場合と、入らない場合についての実験結果を示している。同図(A)に示される発光スペクトルは、発光体外部へと放射される発光のスペクトルを積算したものを示し、同図(B)には、その強度の時間変化を示してある。同図から分かるように、フォトニックバンドギャップ波長域に発光波長が入る場合(フォトニックバンドギャップ効果がある場合)は、確かに発光がゆっくりと起こり、外部へと取り出される総発光量が増加していることが分かる。 逆に、フォトニックバンドギャップ域に発光波長が入らない場合は、(同図の最下部に示すフォトニック結晶を形成していない通常の発光体の場合と同じく)、発光が短時間で終了し、総発光量も小さくなっていることが分かる。以上の結果は、まさしく、図3にて基本原理を説明した結果と一致し、確かにフォトニック結晶構造により、「不要な発光」が禁止され、「有用な発光」にそのエネルギーが使われていることを示している(注5)

 

<まとめと今後の展開>

 以上により、「不要な発光を一切禁止し、投入したエネルギーを必要な発光にのみ利用する」という発光素子の高性能化のための最も直接的かつ基本となる原理が実証された。この原理を応用することにより、発光ダイオードのみならず、レーザや有機発光素子など、発光素子全般の高効率化に寄与し、ディスプレイ、照明、情報、通信など、発光素子が応用される様々な分野の発展に貢献できるものと期待される。さらには不要な再発光を抑えることは、太陽電池や光検出器など、発光とは逆の現象を用いた素子の高性能化にもつながるなど、様々な展開が可能となると考えられる。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:電子・光子等の機能制御(研究総括:菅野卓雄 東洋大学 理事長)
研究期間:平成12年度~平成17年度

用語説明
図 1
図 2
図 3
図 4
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本件問い合わせ先:

野田 進(のだ すすむ)
 京都大学 大学院工学研究科 電子工学専攻
 〒615-8510 京都市西京区京都大学桂
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佐藤 雅裕(さとう まさひろ)
 独立行政法人科学技術振興機構 研究推進部 研究第一課
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