用語の説明

◆ π電子
 エタンといった飽和炭化水素では、炭素原子間の共有結合が、電子が原子間に強く局在した一重結合のみであるのに対して、エチレン、アセチレン、ベンゼン、C60などの分子に見られる二重結合や三重結合は、分子の外側に大きく広がって非局在化している電子が作る化学結合(π結合と呼ぶ)をあわせ持っている。π結合に関与する電子、すなわちπ電子は、分子間に広がって存在できることにより、分子同士の相互作用を媒介し、電荷輸送能や磁性、光学機能など、多彩で有用な物性、機能の発現をもたらすことができる。
◆ 強誘電体
 通常の物質は外部からの電場がかかって分極が発生するが、焦電体と呼ぶ一部の物質では、外部電場をかけていない状態でも分極(自発分極と呼ぶ)を持つことがある。強誘電体とは、焦電体のうち自発分極の向きを外部電場の極性反転によって反転できる(強誘電性)物質を指す。一般に相転移温度Tcを持ち、Tc以下で強誘電性を示す。こうして電場で反転されるまでの間、分極が保持される性質は、不揮発性メモリーとして利用できる。分極反転には結晶格子の変形を伴うため、電気的/機械的エネルギーの相互変換特性に優れた物質例が多い。
◆ 分子化合物
 二種類以上の安定な分子が、水素結合や電荷移動相互作用(分子間の電子の授受を介した相互作用)等により、直接結合してできる化合物。
◆ 分極(誘電分極、電気分極)
 絶縁体(誘電体)に外部から電場をかけた時には、それに応じて電場を打ち消そうと物体内部の電荷が移動して電荷分布に偏りが生じ、物体表面は電荷を帯びた状態となる。分極とは、物体中での電荷の空間的分布の偏りの度合いを表し、単位体積当たりの双極子モーメントとして定義される。
◆ 相転移
 温度や圧力など外部のパラメーターが変わることで、「水が氷へ変化する」「自発分極が現れて強誘電性をもつ状態へ変化する」などのように、二つの秩序の異なる状態間を行き来する現象。
◆ 電気双極子(双極子モーメント)
 微小距離lを隔てて電荷±をプラスとマイナス一対で持つものを電気双極子といい、μ=qlの大きさを持ちマイナスからプラスへの向きで定義されるベクトル量を双極子モーメントと呼ぶ。
◆ 有極性分子(極性分子)
 自然の状態で電気双極子を持つ、つまり永久双極子を持つ分子。極性の結合を持つ分子のうち、例えばメタンのように分子の対称性によって各結合の双極子モーメントが打ち消されると無極性、水やメタノール、アンモニアのように打ち消されない場合、有極性分子となる。液体を構成する分子が有極性か無極性かは誘電率の大きさを測ることで判定できる。固体の場合、各有極性分子が互いに双極子モーメントを打ち消し合うことなく配列できた場合のみ自発分極が現れる。さらに電場に応じて極性分子自身もしくはその置換基の回転などによって、自発分極の向きを反転できた場合、強誘電体となる。
◆ 秩序-無秩序型、変位型
 強誘電体の自発分極のミクロな起源としては、結晶格子が歪んで原子・イオン・分子が位置を変化させるタイプ(変位型と呼ぶ、例:チタン酸バリウム (BaTiO3))、もしくは極性を持つ非対称な分子やイオンの向きが乱雑な状態から秩序化して生じるタイプ(秩序-無秩序型と呼ぶ、例:亜硝酸ナトリウム NaNO2)が知られている。(図1参照)
◆ 電荷移動錯体
 電子供与体(ドナー)分子と受容体(アクセプター)分子から構成された、分子化合物の一種。電子の授受に基づく相互作用で錯体の形成が行われ、その電子の授受の度合いによって中性のタイプ(「分子結晶」の状態)とイオン性のタイプ(「イオン結晶」の状態)が見いだされる。π電子系の電荷移動錯体は、特に有機半導体から有機超伝導体、分子磁性体の材料としてよく知られており、盛んに研究が行われてきた。