平成15年9月12日 |
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1992年に、谷垣教授らの研究グループは、炭素系ナノ多面体クラスター超伝導体(用語1)であるC60物質(用語2)の超伝導機構を同位体効果に基づいて解明する実験に成功している(Nature355, 620-621(1992)に掲載済み)が、1990年代の同時期に発見されたシリコン(Si)多面体超伝導体(用語3)に関しては、高純度のSi同位体が得られず、超伝導機構を解明するために重要な同位体効果の実験をすることが困難であった。 今回、大阪市立大学・谷垣勝己教授グループ、慶應義塾大学・伊藤公平助教授グループ、名古屋大学・守友浩助教授グループ、広島大学・山中昭司教授グループは、Siのナノクラスターから構成される超伝導物質について、構成原子のSi(原子量28)を質量数が異なる同位体 Si(原子量30)に置き換えて、全く同じ原子配列をもつ物質の合成に世界で初めて成功し、超伝導転移温度(用語4)が、Siの原子量を変えることによって変化することを確認した。 ナノクラスターとSi半導体同位体工学を融合して得られた新しい同位体物質の構造を精密に決定するために、大型放射光施設(SPring-8)における世界最高の輝度のX線を用いて構造解析を行った。この結果、全ての原子量28のSi原子が原子量30の同位体Si原子に置き換えられたことが確認された。合成された物質を用いて確認された超伝導同位体効果(用語5)の実験結果を詳細に解釈することにより、Siナノクラスター超伝導体は、フォノン(用語6)を介在とするBCS理論(用語7)に従う超伝導体であることが明らかになった。1992年の13Cならびに今回の30 Siを用いた超伝導同位体効果の実験により、20世紀に発見された2種類のナノクラスター超伝導体の機構は、BCS理論で説明できることが明確にされたと言える。 これまでは、同位体Si原子をSiの塊から高純度に分離精製することは非常に難しく、今回のような研究は困難と考えられていた。しかし、半導体材料の同位体工学の進展により高純度の同位体の分離生成が可能となり、純粋なSi同位体だけによる同一物質の合成の成功に結びついた。今回の成果は、単に、Siクラスターやフラーレン分子を構成単位とする物質の超伝導の機構を明らかにするだけでなく、これらの物質をベースとする高い超伝導転移温度を持つ、新材料のデザインへの指針を与える。また、Si半導体デバイス中に、同じ構造であるが、原子量で色分けされ、異なる性質を持つクラスター物質をナノスケールで配置することは、量子コンピュータ(用語8)を全てSi半導体を用いて作り出すための道を開くものとも言える。 純粋に分離された同位体元素(用語9)から合成されるナノクラスター物質は、図1に示す種々の同位体クラスタネットワークから構成され、下記の特徴を有する。
この研究での意義は、Si半導体同位体工学(用語11)の適用により、図2に示すように、純粋に分離された同位体元素を含むナノクラスター物質を、創り分けることができるようになったことである。今後、同じSiで長年にわたって蓄積された半導体デバイス技術と合体させることにより、同位体元素を使って創り分けた固体素子を規則的に並べ、次世代のナノ電子素子をデザインすることが可能となる(図3)ことにより、現在、様々なアイデアに基づいて研究が行われている量子コンピュータの開発を加速することにつながると考えられる。 本研究は、科学技術振興事業団の戦略的創造研究推進事業の一環として行われた。また、SPring-8での実験は文部科学省のナノテクノロジー総合支援プロジェクトの支援を受けて粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2で実施された。 | ||||||
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