平成15年9月8日 |
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カーボンナノチューブとは、1991年にNEC筑波研究所の飯島澄男主席研究員 (現 名城大学理工学部教授)が発見した炭素のみから構成される筒状の物質で、その直径は1~2ナノメートル(用語1)である。カーボンナノチューブは、電気的にも機械的にも非常に優れた特性を有するため、ナノテクノロジーの基幹物質として注目を集めている材料である。特にナノメートルスケールでのデバイス作製が可能であることから、シリコンに替わる次世代のエレクトロニクス材料として世界的な研究が展開されているが、これを実現するためには、なお数々のハードルを乗り越えなければならない。その一つが、安定で精度の高い伝導性の制御法の確立である。 一般に物質中の電気の流れは、それを担うキャリヤ(用語2)の種類と数を変化させることによって制御することができる。例えば、シリコンなど無機半導体では、不純物元素のドープによって電流を運ぶキャリヤを導入するという手法がとられている。今回新しく発見されたカーボンナノチューブを流れるキャリヤを制御する方法は、ナノチューブの内部に有機分子を挿入し、複合体にするというものである。(図1)。このイメージは、大型放射光施設SPring-8 (*)でのX線回折データを解析することによって得られたものである。ナノチューブの内部には、比較的ナノチューブの内径に近い大きさを持った有機分子が挿入されやすく、いったん挿入されると非常に安定である。類似の構造を有する物質としては、フラーレン(用語3)をナノチューブの中に取り込んだピーポッドと呼ばれる物質が知られている。今回得られた有機分子を内包したナノチューブの最大の特徴は、内側に挿入された有機分子からナノチューブにキャリヤが供給されることである。その結果、挿入する分子の種類と数を変化させることによって、ナノチューブの電気的性質をn型にもp型にも変化させたり、電気伝導度を自由にコントロールできるようになる。 一般にn型のナノチューブは空気中で不安定であるが、この場合は、キャリヤの供給源がチューブに囲まれていて空気に直接触れることがないため、n型の状態が空気中でも安定になる。しかも、内部の空間を利用する方法なので、チューブの外形はまったく変化せず、これまでに蓄積されたナノチューブに関する技術はすべてそのまま適用可能である。 | |||||||
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ナノテクノロジーの材料やデバイスには、真空や低温などの特殊な環境を必要とする場合があるが、キャリヤのタイプや電気の流れやすさを自由に制御できるナノチューブの今回の合成は、空気中で安定な種々のナノチューブトランジスタを作製する道を開いた。この技術は、小型化の限界に近づきつつあるシリコンに置き換わる半導体としての応用、あるいは、やわらかく曲げられるコンピュータの中心材料としての応用などが期待される。 今回の新技術のキーは、ナノチューブ特有の内部空間を積極的に活用して、あたらしい機能性をナノチューブに付与できることである。この手法を用いた様々な集積法によって、ナノチューブの機能性がさらに豊かになると考えられる。 | |||||||
(*)SPring-8での実験は文部科学省のナノテクノロジー総合支援プロジェクトの支援を受けて粉末結晶構造解析ビームラインBL02B2で実施された。 ◯用語解説 用語1 ナノメートル 長さの単位で、1ナノメートルは1ミリメートルの100万分の1に相当する。 用語2 キャリヤ 固体の中で電流を運ぶ素粒子。一般にはマイナス電気を持つ電子がキャリヤであるが、半導体の場合、プラス電気を持つ粒子(正孔)が電気を運ぶように見える場合もある。前者の物質をn型、後者の物質をp型という。 用語3 フラーレン 1985年、R.E.Smalley, H.W.Kroto, R.F.Curlらによって、炭素原子が60個集まってできたサッカーボールの形をした分子(C60)が発見され、フラーレンと名付けられた。 その後、この分子のユニークな形から多くの研究が行われ、C70をはじめとする炭素原子の数の異なる様々なフラーレン分子や、金属を内包するフラーレンが創り出されている。 | |||||||
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