慶應義塾大学環境情報学部
清水 浩
電気自動車が社会的に受け入れられるためには、環境に優しいことはもちろんのこと、性能と機能の面での優位性が必要であるとの観点から開発を行いました。このためには電気自動車をゼロから見直し、かつ性能向上に役立つ要素技術の改良と電気自動車の特徴を引き出すための車体構成技術を創案致しました。
ここで用いた要素技術とは、①リチウムイオン電池、②速度コントローラのためのインテリジェントパワーモジュール、③モーター用の希土類磁石です。
また、車体構成技術として、①インホイールドライブ、②コンポーネントビルトイン式フレーム、③タンデムサスペンションと名付けるそれぞれの技術です。
ここで、
① | リチウムイオン電池とは、 |
イオン状のリチウムを電気を運ぶ媒体として使用する電池です。これは携帯電話には一般的に使われ始めています。従来からの鉛電池に比べて重さ当たりに蓄えられる電力が約3倍、瞬間的に取り出せる電力も約3倍で、寿命が約2倍の性能を持っています。 | |
② | インテリジェントパワーモジュールとは、 |
高速で動作することができるIGBTというトランジスタに信号増幅回路などを組み込んだもので、これによって速度コントローラでの電力損失を抑えることができます。 | |
③ | 希土類磁石とは、 |
周期律表の希土類に属する元素を磁石として用いるもので、従来の鉄を使った磁石に比べてはるかに強力です。ここでは、Nd-Fe(ネオジウム-鉄)の組み合わせの材料を用いています。なお、ネオジウムは希土類に属する元素です。 | |
④ | インホイールドライブとは、 |
電気自動車の駆動に必要なモーターと減速ギアとベアリングと機械ブレーキを一体化して、車輪の中に組み込むことを可能にした駆動システムです。これの利用によって、走行に関わる損失が少なくなり、車全体が軽量化でき、車内で有効に利用可能な空間が著しく広げられます。 | |
⑤ | コンポーネントビルトイン式フレームとは、 |
床下に中空の梁構造を作り、ここにできる空間に電池、速度コントローラ、スイッチなどの走行に必要な大型部品を挿入する技術です。これによって車内の有効利用空間が広がり、車体の軽量化が可能で、しかも重心が低くなります。 | |
⑥ | タンデムサスペンションとは、 |
大径の車輪を比較的小型の2つの車輪に置き換え、これらの2つの車輪同士をオイルパイプで接続するものです。しかも、各車輪にインホイールドライブを挿入することにより8輪車、8輪駆動を実現します。この技術により、車体上で実質的に使える空間を広げることできるとともに、悪路での乗り心地の良さとカーブを切る際の安定性を増すことができます。 |
以上の技術を結合することにより、従来の内燃機関自動車に比べて、車室空間が広がり、床の高さが低くなって乗降が容易になり、床面の平らな部分を大きくすることが可能です。性能的には、最高速度300
km/h、0-400m加速14.5 秒、一充電走行距離300
kmの実現が可能です。また、加速感の良さ、加速時や減速時の車体の前後の傾きの少なさで良好な性能を有します。悪路での乗り心地の良さ、曲線道路での車体の傾きの小ささ、滑りやすい道路での車体の安定性が向上します。
もちろん、環境への優しさという点では、群を抜いています。
以下にKAZの仕様を示します。
車体 | 長さ | 6,700 mm |
幅 | 1,950 mm | |
高さ | 1,675 mm | |
重量 | 2,980 kg | |
定員 | 8 人 | |
電池 | 種類 | リチウムイオン |
電圧 | 3.75 V | |
容量 | 88 Ah | |
重量 | 3.5 kg | |
数量 | 84×2 | |
モーター | 種類 | 6相同期式 |
磁石 | ネオジウム鉄 | |
最大トルク | 100 Nm | |
最高回転数 | 12,000 rpm | |
最大出力 | 55 kW | |
ギア比 | 4.588 | |
数量 | 8 | |
インバーター | 種類 | PWM |
入力電圧 | 0~140 V | |
入力電流 | 0~250 A | |
タイヤ | サイズ | 185/55-R16 |
懸架装置 | 種類 | ダブルウィッシュボーン |
方式 | ハイドロニューマチック | |
性能 | 最高速度 | 300 km/h |
0-400m加速 性能 |
14.5 秒 | |
一充電走行 距離 |
300 km (100 km/h定速走行時) |
This page updated on February 26, 2001
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