(お知らせ)


平成12年6月23日
埼玉県川口市本町4-1-8 
科学技術振興事業団
電話(048)-226-5606(総務部広報担当)

「パーキンソン病の発症メカニズムを解明」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎雅弘)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「超分子システムによる免疫識別の分子機構解明」(研究代表者:田中啓二 東京都臨床医学総合研究所 研究部長)で進めている研究の一環として、家族性パーキンソン病の発症メカニズムを解明した。この研究成果は,東京都臨床医学総合研究所の田中啓二研究部長のグループが、順天堂大学医学部脳神経内科の水野美邦教授のグループと共同して得られたもので、6月27日の米国科学雑誌「ネイチャー・ジェネティクス」で発表される。

 パーキンソン病は筋肉のふるえ、運動の硬直、動作緩慢、姿勢反射障害などを示す神経性の疾患であり、我が国における有病率は1000人に1人といわれ、アルツハイマー病についで多発する難治性の神経病である。そのため、パーキンソン病の原因解明、予防及び治療法の確立は社会的に大きく要請されている。
 パーキンソン病は、遺伝的な要因の関与はあまりないといわれてるが、まれに遺伝的な要因で生じ、それは家族性パーキンソン病と呼ばれる。代表的な家族性パーキンソン病である若年性パーキンソニズム(AR-JP)は、1998年にその原因と考えられる遺伝子が我国で発見されたが、その遺伝子から作られる酵素「パーキン」の働きについてはわからず、その発症機構は不明であった。

 今回、パーキンの機能の解明に成功し、パーキンがユビキチンリガーゼと呼ばれる酵素であることを世界ではじめて突き止めた。ユビキチンリガーゼは生体内にある「蛋白質の品質管理」と呼ばれるシステムのなかで中心的な役割を果たす酵素である。このシステムは細胞内に生じた不要な蛋白質が蓄積しないように分解し、細胞を恒常的に維持するものであり、具体的にはユビキチンリガーゼが、不要な蛋白質にユビキチン(注1)という目印を結合させ、このユビキチンを目印にプロテアソーム(蛋白質分解酵素)がこの不要な蛋白質を認識し、分解するものである。
 また、パーキンが正常に働くことが蛋白質の品質管理には必要不可欠であると考え、AR-JP患者にみられるパーキンについてその活性(酵素の反応性)を調べた。その結果、調べた限り全てのAR-JP患者でユビキチンを蛋白質に結合させる機能が失われており、パーキンの活性がないことがわかった。このことは、パーキンの活性を失うことが疾患の原因であり、分解されずに残った蛋白質が蓄積して、神経細胞の破滅(細胞死)に至ると考えられる。

 今後の重要課題としては、パーキンによってユビキチンが結合する蛋白質の中から、細胞死の原因となっている未知の蛋白質を同定する必要がある。この未知の蛋白質が同定されることでAR-JPの発症機構はさらに明確となるであろう。

 今回の研究成果は、これまで手掛かりのなかったパーキンソン病の治療法確立への道を大きく開くものと考えられる。またこの結果は、神経変性疾患が蛋白質管理システムの異常によって発生することをはじめて解明した例である。今後、蛋白質の異常な蓄積が恒常的に観察されるアルツハイマー病など他の神経変性疾患の研究にも多大な影響を与え、このような研究の礎になると思われる。

若年性パーキンソニズムの原因遺伝子 parkinの機能解明(図)

補足説明

(注1)蛋白質に「死」の引導をわたすと考えられている分子

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
 研究領域:生体防御のメカニズム(研究統括:橋本嘉幸 (財)佐々木研究所所長)
 研究期間:平成8年度-平成13年度

本件問い合わせ先:
(研究内容について)
田中 啓二(たなか けいじ)
東京都医学研究機構・東京都臨床医学総合研究所
(分子腫瘍学研究部門)
〒113-8613 東京都文京区本駒込三丁目18-22
Tel & Fax: 03-3823-2237
(事業について)
石田秋生(いしだ あきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5635
FAX:048-226-1164

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