(お知らせ)


平成12年6月20日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話048-226-5606(広報担当)

個人研究推進事業における成果について
「一次元モット・ハバード絶縁体における巨大な光学非線形性の発見」

 科学技術振興事業団(理事長 川崎 雅弘)の個人研究推進事業において、研究課題「光によって生成する遷移金属錯体の新しい電子相」(研究者 岡本 博 東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教授)に関して行われた研究で、モット・ハバード絶縁体と呼ばれる一次元遷移金属化合物において、従来の物質に比べて著しく大きな三次の非線形光学応答が現れることを発見した。本成果は、6月22日付英国科学雑誌「ネイチャー」にて発表される。

 光だけを使って動作するスイッチング素子や変調器、また論理演算素子を実現することは、光学技術の最も重要な目標の一つである。物質に光を照射したり電場を印加したりすると、物質中には電場に比例した分極が生じる。電場強度が大きくなると電場の三乗に比例する非線形分極が生じる場合があり、この非線形な光学応答の大きさを決めている比例定数がχ(3)である。上記の光機能性素子の性能はχ(3)の大きさに依存するため、大きなχ(3)をもつ非線形光学材料が望まれている。電子の運動を一次元空間に量子的に閉じ込めることができれば、χ(3)を増大させることができると予想されるので、一次元物質、いわゆる「量子細線」の研究が盛んに行われている。
 量子細線としては、主に、バンド絶縁体(シリコン高分子等)、および、パイエルス絶縁体(π共役高分子、一次元白金ハロゲン化物等)が研究されている。これらの系では、10-12から10-7e.s.u.(静電単位系)というχ(3)の値を持っている。本研究では、これら2種類の系とは異なる電子構造を持つ一次元銅酸化物および一次元ニッケルハロゲン化物について、三次の非線形感受率χ(3)を調べた。具体的には、これらの物質は電子間に大きなクーロン反発がはたらくことによって絶縁体化しており、モット・ハバード絶縁体と呼ばれている。一次元銅酸化物では銅および酸素イオンによって、またニッケルハロゲン化物ではニッケルおよびハロゲン(塩素あるいは臭素)イオンによって一次元鎖が形成されており(図1)、この一次元鎖が光学応答を支配している。これらの物質について、電場変調反射分光(外部電場の印加による反射率の変化を測定する手法)を用いてχ(3)の絶対値を評価した。
 求められたモット・ハバード絶縁体のχ(3)は、10-8から10-5e.s.u.であり、従来調べられてきたバンド絶縁体やパイエルス絶縁体のそれに比べて著しく大きな値であることがわかった(図2)。さらに、このようなχ(3)の増大は、励起状態間の光学遷移の強度が大きいというモット・ハバード絶縁体の特徴を反映したものであることが明らかとなった。
 電子間に強いクーロン反発がはたらく系は一般に強相関系と呼ばれており、高温超伝導を示す二次元銅酸化物や巨大磁気抵抗を示すマンガン酸化物が注目を集めてきた。本研究の結果は、強相関系が、伝導物性や磁性だけでなく光物性においても極めて興味深い性質を持つ物質系であることを示している。本研究で見出されたモット・ハバード絶縁体における巨大な光学非線形性は、新しい非線形光学材料開発のブレークスルーにつながるものと期待され、今後、基礎、応用の両面から精力的な研究がなされていくものと考えられる。

論文名 Gigantic optical nonlinearity in one-dimensional Mott-Hubbard insulators
(一次元モット・ハバード絶縁体における巨大な光学非線形性)
doi:10.1038/35016036

研究の概要
科学技術振興事業団 個人研究推進事業「状態と変革」領域(領域総括 国府田 隆夫)
研究テーマ 「光によって生成する遷移金属錯体の新しい電子相」
研究者 岡本 博(東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教授)
研究実施場所 東京大学大学院新領域創成科学研究科
研究実施期間 平成10年10月~平成13年9月

(問合せ先)
(1) 岡本 博(オカモト ヒロシ)
東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教授
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel 03-5841-6835、Fax 03-5841-8734
(2) 日江井 純一郎(ヒエイ ジュンイチロウ)
科学技術振興事業団 個人研究推進室
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
Tel 048-226-5641、Fax 048-226-2144

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