研究課題別中間評価結果(脳を知る7)


1.研究課題名

 神経系形成における Glial cells missing 遺伝子の機能

2.研究代表者名

 堀田 凱樹(国立遺伝学研究所)

3.研究概要

 ショウジョウバエの神経系におけるグリアとニュ-ロンとの分化のスイッチ遺伝子 gcm(glial cells missing)遺伝子について、その産物が特定の8塩基を認識して結合する新規の転写調節因子であることを証明し、さらに転写・翻訳がグリア・ニュ-ロン分化の分岐点でどのように調節されているかの詳細を明らかにした。また、同じDNA結合域をもつホモローグが脊椎・無脊椎動物に広く存在し、さまざまな細胞分化分岐のスイッチとして働いている可能性について示した。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 gcm のホモローグは哺乳類神経系では発現が証明されず、マウスで一般的にグリア・ニューロンの分化を支配しているという考えには否定的な結果が得られたのは予想外のことであった。すなわち、マウスでのホモローグは血球産生系で発現し、特定の血球細胞を分化させるスイッチとして働いている可能性が示唆されたのははじめの予想とはかなり異なった新しい展開である。
 研究レベルについては、gcm の発見が独創性が極めて高く、世界的に競走が激しい中で、現在この分野ではトップを走っていると思われる。最近のショウジョウバエ神経系の特性を生かした実験により GCM 蛋白質の不等分配の詳細 を明らかにしたことは高く評価される。代表者のリーダーシップによってよくまとまった研究体制がつくられており、若手研究者も活躍している。
 今後の研究への期待としては、gcm はショウジョウバエで発見されたが、脊椎・無脊椎動物で広く細胞分化分岐スイッチとして重要であり、各種の細胞分化に関係するらしいので、それらの分子機構の解明につながれば面白い。また、GCM-DNA複合体はかなり特異な構造が予想されるので、複合体の結晶化と構造解析に期待する。マウスの上皮小体やショウジョウバエの頭部中胚葉での gcm 発現が血球産生系の分化に関与していることが米国のグループにより発見されたが、これらの知見を自分の研究へとりこんで、gcmのさらに広い役割を解明して欲しい。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 途中で代表者の研究条件が変わったことを考えると、現在までかなりよく成果を挙げていると思われる。研究発表に関してはgcm に関わる論文は比較的少ない。 gcm の生物学的重要性は高いと思われるので、これに関する研究者の関心は大きい。研究代表者はニューロン・グリア分化の分野では世界をリードしており、出発点でのインパクトは非常に高かったので、発現の条件、gcm 遺伝子の上流の解明が進めば大きい展開が期待できる。
 末梢神経系で gcm 遺伝子が Notch 遺伝子の下流に位置していることが示され、ニューロン・グリアの分化と gcm , Notch との関連が解明されたことは印象深い。また、マウスにおける血球細胞の分化、ミクログリアとの関係なども面白い展開が期待できる。
4-3. 総合的評価
 gcm の発見は重要である。この遺伝子はショウジョウバエにおいてはニューロン・グリアの分化に関わるが、さらにこれに加えて様々な細胞分化に関わる転写調節因子であることが明らかとなった。哺乳類のグリアに gcm ホモローグの無かった点は残念であるが、gcm にこだわり、血球分化等に進むと、研究の焦点が脳から離れてしまうかもしれない。もしショウジョウバエの研究に主力を注ぐのであれば、「原理的な問題の解明」を達成してほしい。これに対して gcm の解明が目的ならば、マウスでの研究成果が焦点となろう。

This page updated on Feburary 3, 2000

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