研究課題別中間評価結果(脳を知る5)


1.研究課題名

 脳内光受容とサーカディアンリズム

2.研究代表者名

 深田 吉孝(東京大学大学院理学系研究科生物化学)

3.研究概要

 本研究は、脊椎動物における脳内光受容の実体の解明と、その光情報が概日時計の位相を調節するメカニズムの解析を通して、概日リズム発振系の分子メカニズムに迫ろうとするものである。これまで3年間の研究において、概日リズムの光位相同調や光周性(季節性の日長変化の識別)を支配すると考えられる新たな脳内光受容蛋白質をいくつか同定した。また、脳内の時計細胞においてMAPキナーゼ活性が日周変動することを見出し、MAPキナーゼが概日リズムの発振系そのものを構成する重要な因子であることを発見した。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 当研究チームは研究代表者が以前にニワトリおよびハト松果体で発見した光受容物質ピノプシンに引き続き、概日リズムの光位相同調や光周性を支配すると考えられる新たな脳内光受容蛋白質をいくつか同定した。すなわち、ニワトリ松果体でピノプシンと共役してメラトニン合成を抑制する百日咳毒素感受性 G 蛋白質 Gt1α を単離し、光反応によって生じるピノプシンのメタⅡ中間体が G 蛋白質を活性化することを明らかにした。また、ゼブラフィッシュの松果体で新しい光受容蛋白質エクソロドプシンを、ハトとヒキガエルの脳深部および網膜で光受容蛋白質 VAL オプシンを同定した。さらに、ニワトリ松果体とウシガエル網膜でMAPキナーゼ活性が日周変動することを見出し、MAPキナーゼが概日リズムの発振系そのものを構成する重要な因子であることを発見した。
 国内外の類似研究との比較では、ピノプシンについて極めて質の高い研究が進められており、MAPキナーゼの日周変動の発見も大きい意義を持つと評価する声と、外国においても類似した研究があり、当研究グループがわずかにリードしている程度であり、競争に勝つためには抜きん出た成果とアイデアが必要と思うという意見に別れている。
 研究体制については、培養細胞系を用いた概日リズムの研究をするグループを含んでいるので、哺乳動物の視交叉上核における概日時計の分子機構を研究できる。多くの若手研究者が参加しており、共同研究もうまく行っている。電気生理学的手法による解析を行う体制がやや欠けているように思われる以外は比較的妥当である。
 今後、脳深部光受容の研究で大きな展開が期待できる。また、MAPキナーゼに関する研究および概日リズムの可視化も進展が期待される。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 新しい研究室を立ち上げ、若い人達をまとめて精力的に研究を展開している。カエル、トリ、ゼブラフィッシュの比較研究から、脊椎動物における概日リズム発振系の分子メカニズムの解明を進めている。光受容蛋白質と共役する G 蛋白質系、さらに MAPキナーゼカスケード の分子機構解明も進んでいる。論文は確実に出版されており、報告書から判断して成果の学術的インパクトは比較的高いと思われる。しかし、発表論文の平均インパクト係数は この分野としてはあまり高くないとの批判もあった。
 今後は哺乳類視交叉上核における成果が期待される。一般的には、時差ボケなどに関連して、サーカディアンリズムに対する関心は強く、メラトニンを中心に松果体に対する関心も深い。各種動物について概日リズムの発振系に関する細胞内情報系の統一的機構の解明が得られることを期待する。とくに、MAPキナーゼのリン酸化リズムの研究成果に期待している。哺乳類での研究成果は実用的意味を持つであろう。
4-3. 総合的評価
 ゼブラフィッシュ、カエル、ニワトリ、ハトと比較生物学的な観点から概日リズムと脳内光受容について精力的に研究を進めている点はユニークである。しかし各生物間のつながりが判然としない。カエル、トリ、マウスの研究成果からさらにヒトも含めて概日時計発振系の分子機構の共通原理とそれに関与する分子を明らかにしてほしい。また、この分野ではショウジョウバエ、マウスにおける時計遺伝子の発見により急速な進歩が起こっている。その中でまとまりのある外からはっきり見える貢献をしてほしい。

This page updated on Feburary 3, 2000

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