研究課題別中間評価結果(極限5)


1.研究課題名

 衝撃波面形成過程と新化学反応プロセス

2.研究代表者名

 近藤 建一  東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授

3.研究概要

 当研究課題の目的は、衝撃波の下における物質の物理・化学に関する研究である。その為の斬新な衝撃波発生装置、発生・伝搬の測定装置、精巧な計算シミュレーション法の開発、および衝撃波下における物質の状態方程式の探求を行なう。衝撃波発生には主としてレーザーを用いるが、発生メカニズムを広く把握するため衝撃銃の方法も用いる。発生・伝播の測定にはレーザー光、赤外光、X線を用いる新技術を開発する。衝撃波面近傍の状況は超高圧力・超加速度に加え、それらが空間的・時間的に極端な勾配を持ったパルス反応場と見ることができる。この未開拓の極限環境を精確に定量的に計測する方法、および的確に理論的に表現する方法を確立し、その上に立つ新物質創製の新しい方法論の構築を目指す。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究ではこれまでに、衝撃波の発生新技術と測定新技術の開発に成功し、さらに炭素を衝撃応答波のセンサー物質として用い、応答の様子を観察・吟味している。挙げた成果として、衝撃銃速度測定用のドップラーレーザー干渉計の完成、オプトピン法と命名した衝撃波検出法の開発、赤外域の高速放射温度計の完成があり、また衝撃波発生には試料に直接レーザー照射を行なう方法の開発の他に、飛翔体としてAl-polyimid-Taの3層箔を作製し、それをレーザー照射により加速して試料に当てる方法を開発した。飛翔体を用いる利点は良質な衝撃波が得られることにある。
 試料に直接レーザー照射する方法では、実際にフラーレン蒸着膜に出力テラワットのレーザを当てて透明微小組織ダイヤモンドを得ている。衝撃波発生には大型のレーザー施設を利用する他に、実験室でもできるようにするためテーブルトップ型レーザー発生装置を用いる技術を現在開発中である。このテーブルトップ型装置のもう一つの利点としては、衝撃波発生・伝播の計測に用いるX線パルスを発生させることができる。それにより既にピコ秒パルスX線の発生に成功している。これらテーブルトップ型レーザー発生装置からのレーザーによる衝撃波発生、およびピコ秒パルスX線の発生とその利用技術の開発は世界トップレベルの水準にある。
 飛翔体のAl-polyimid-Ta3層箔を照射・加速する方法では、大阪大学のレーザーシステム激光IIを用いて20km/secにまで達成した。衝撃銃を用いる方法では通常の2段式衝撃銃を超える3段式衝撃銃を開発中で、銃方式としては世界最高の衝撃速度9km/secを目指している。
 本研究課題の期間後半の予定として、3段式衝撃銃で9km/secの加速、ロングパルスレーザー加速によるフライヤーの速度記録更新、広波長領域高速放射温度計(赤外~X線)の製作、テーブルトップ型レーザー発生装置によるレーザー衝撃波の平面性向上、ピコ秒パルスX線を用いた時間分解型の衝撃・結晶格子変化観測システム構築、衝撃波に関する2次元流体計算と分子動力学計算のシミュレーション手法の開発を行なう。又、衝撃波面における第2高調波発生、流体の衝撃誘起分極、圧力誘起相転移などの検出実験、透明微小組織ダイヤモンド箔の物性測定等を行う。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 衝撃銃及びレーザーによる衝撃波の発生システム、並びに物質内の衝撃波伝搬速度、温度、構造変化等の測定システム構築は可成り進んでおり、各装置における性能確認の実験を着実に行なっている。またレーザー衝撃をフラーレン蒸着膜に与えた場合の相変化、種々の液体に与えた場合の誘起分極の検出実験を行っている。
 衝撃波の物理・化学の本質を可能な限り定量的に追究するための衝撃波発生および検出システムを組み上げて来ており、実験の定量性向上はこの研究分野において希求される処である。また実験を補うシミュレーション手法の開発を進めている。衝撃波発生システムおよび検出システムを用いて種々の固体、液体に衝撃を与えた場合の構造変化や相転移等の興味有る成果が期待される。
 当研究チームによる衝撃波の物理・化学上の成果が科学技術上の関心を呼ぶことと期待されるが、それにより発掘する新規化学反応が直ぐに産業に結び付く可能性は現在の処不明である。
4-3. 総合的評価
 高い技術開発力を伴った実行力、意欲は高く評価される。最新の工学技術を駆使した衝撃波の発生および診断技術の開発は未開拓の分野に属し、当研究チームは我が国のこの方面における研究レベルの高揚と若手人材育成に貢献できる極く少ない集団の一つであって、その能力と存在の価値は大きいと言える。

This page updated on Feburary 3, 2000

Copyright©2000 Japan Science and Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp