研究課題別中間評価結果(生体5)


1.研究課題名

 「ウィルス持続感染による免疫均衡の破綻機序とその免疫治療法の開発」

2.研究代表者名

 神奈木 真理 東京医科歯科大学医学系研究科 教授

3.研究概要

 ウィルスの持続感染症では腫瘍、自己免疫、免疫不全等の多彩な疾患が生ずる。これらの病態形成や進行にはウィルス病原性だけでなく宿主の免疫系が深く関与している。本研究では、ヒトレトロウィルスと宿主免疫の相互作用を解析し、究極的にはウィルスを抑え免疫不均衡を矯正する免疫治療法の開発をめざす。具体的には、ラットを用いたHTLV-I生体感染系では、無症状持続感染系、ヌードへの腫瘍生着系、免疫抑制による腫瘍誘導系の3種の実験系を確立した。これらは、今まで困難であったHTLV-I感染宿主生体内での抗腫瘍免疫の解析とワクチン開発を可能にした。また、HTLV-I感染宿主の免疫についても新発見があった。HIV感染では、SCID-huPBL系を用いた生体感染系ではウィルス病原性の生体内検定が可能になった。ヒト感染者PBMCを使った解析で、HIV複製抑制CD8細胞の動態と破綻機序に関して、また、Th1型、Th2型細胞のHIV親和性とケモカインレセプター発現に関して新知見が得られた。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 スタート当初はやや進展がなかったが、ラットを用いたHTLV-1生体感染系の3種の実験系の確立によって、目的に沿った研究の目覚しい進捗がみられた。ただし、進捗が見られたのはHTLV関係が中心で、HIV関係の研究の遅れが目立つ。HIV感染および宿主免疫の解析に必要なex vivo感染系は充実してきたので、今後の進展が期待される。共同研究者の寄与が分散しているので、もっと研究分担の焦点を絞る必要がある。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 HTLV-I感染系での、ヌードラットの腫瘍生着系樹立は、Journal of Virologyでの論文発表に加え、ワクチンや治療効果判定のできる系として特許を申請するなど、成果を上げている。今後は、抗腫瘍ワクチン効果、腫瘍免疫抗原の同定、持続感染機序に関して成果が期待される。
 HIV感染系では、CD8陽性細胞によるHIV抑制の分類と臨床病期の相関、抑制破綻の実験的条件等について成果が見られた。HIV複製サイクル前半部分での調節分子integraseの機能部分の一つを同定し、新たな治療標的として特許申請した他に、Hu-PBL-SCID系ではHIV増殖の成立、HIV株およびThサブセットの偏り等を明らかにし論文発表するなどの成果をあげていて、今後の成果が期待される。
4-3. 総合的評価
 ヒトレトロウィルスの持続感染のうち、HTLV-Iに関する研究が先進しており、今後の成果も期待できる。HIV感染系も成果は出ているが、本来の主題の達成のためには実験系が未成熟である。難しい研究対象であるが、徐々に進歩しており、ワクチン開発につながる成果が期待される。

This page updated on Feburary 3, 2000

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