研究課題別中間評価結果(生体3)


1.研究課題名

 「植物の感染防御機構の生物有機化学的解明」

2.研究代表者名

 岩村 俶 京都大学大学院農学研究科教授

3.研究概要

 海から陸へ最初に上陸を果たした生物は植物であった。それは現在のコケのようなものであったと考えられている。その後、植物はシダのような維管束植物へ、そして裸子植物、被子植物へと進化してきた。植物が陸上で作った穏やかな環境はやがて植物を糧とする様々な生物の繁栄をもたらした。植物はこれらの外敵から自らを守るために抗菌性物質、摂食阻害物質などを作る機能を発達させ、防御機構を構築してきたと考えられている。この研究では、この植物とそれを食する生物との間で繰り広げられているドラマを、植物の視点に立ち、生物有機化学的手法により明らかにしようとしている。具体的には、(1)防御物質の従属栄養期特異的発現、生合成をコムギ、トウモロコシ、更にはオオムギについて精査するとともにゲノム解析を試みた。(2)エンバクのファイトアレキシンの誘導過程をエリシターによる酵素活性の誘導を指標に解析した。(3)数種の未熟果実がファイトアレキシンを生成して感染に抵抗していることを明らかにした。(4)イネのファイトアレキシンの誘導機構の解明および生合成酵素のクローニングを行った。(5)野生植物の構成的ならびに誘導的抗菌物質、ホウレンソウ根腐れ病 菌の遊走子の挙動制御物質、ナスの接ぎ木による病原抵抗性増進のメカニズムを追究した。(6)植物の防御機構の実態を、生理・生態化学的視点から究明する目的で、拮抗菌、内生菌、着生菌と植物の多様な生物間相互作用の解析を行ってきた。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 課題は研究概要に記述したように広範多岐にわたるが、それぞれの目的に沿ってよく行われている。コムギ、トウモロコシの従属栄養期での防御動態の解明、エンバクのファイトアレキシン類の発現機構の解析、野生植物の防御物質の同定、根腐れ病菌遊走子に対する非宿主植物の物質応答の解析など天然物化学的観点からはかなり進捗したように思われる。メチオニンがイネのファイトアレキシンの強力なエリシターとなること、オオムギのホルダチン遺伝子をコムギに導入て発現させたこと、イネのサクラネチン生合成酵素遺伝子のクローニング、化学物質を介した植物と微生物の相互作用などで、新たな展開も見られる。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 研究はおおむね予定通りに進捗し、従属栄養期に特異的な防御機構に関わっているbenzoxazine glucosidase、glucosyltransferase、N-hydroxylaseの性状の解析、エンバクのアミド型ファイトアレキシンの生合成系の解明、根腐れ病菌遊走子に対する非宿主植物の物質応答に関与している5種類の物質の解明などの学術的成果とともに、応用的展望においても成果を得ている。特許出願も国内4件、海外2件あり、メチオニンにおけるエリシター活性の発見、オオムギ抗菌性物質のコムギにおける発現など、具体的に応用を展望した研究が期待できる。論文は、Zeitschrift fur Naturforschung、Phytochemistry等、国際的学術雑誌にも報告されているが、さらにインパクトの大きい雑誌に報告することが、国際的に高い評価を受けるためには必要であろう。
4-3. 総合的評価
 植物の生体防御機構を、天然物化学・生化学・分子生物学・化学生態学の見地から解明しようとするもので、全てではないが、いくつかの命題でユニークな応用展望を持てる研究になっている。蛋白系防御との関連の追及、分子生物学的手法の多用や国際協力の推進が必要であろう。ファイトアレキシンは種類が多く、全体としてのコンセプトの樹立が必要であり、この研究の今後の展開で望まれるのは、植物全体の防御機構の中での位置づけであろう。

This page updated on Feburary 3, 2000

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