研究課題別中間評価結果(生命5)


1.研究課題名

 左右軸の位置情報の伝達・確立の分子機構

2.研究代表者名

 濱田 博司 大阪大学 細胞生体工学センター 教授

3.研究概要

 脊椎動物は、心臓・脾臓・胃など多くの左右非対称な臓器を有するが、これは胚発生の過程でどのような機構(分子)で決定されているのか?左右軸決定の機構は、発生学の領域において未だ殆ど手を付けられていない問題であり、その分子機構は不明のままである。濱田らはleftyと呼ぶ胚の左側半分のみで発現される新規TGFb superfamilyを同定した。様々な点からleftyは左右軸の決定で中心的役割を果たすMorphogenであると予想され、左右軸を決定している遺伝子プログラムを解明するための絶好の突破口となる。本研究では、leftyを突破口として、左右の位置情報の伝達・確立機構を分子レベルで明かにする。具体的な研究目標は1)遺伝学的手法によって、左右軸決定におけるleftyの役割を調べる。2)leftyの持つ誘導活性をニワトリ胚などを用いて解析する。3)lefty蛋白質に対する受容体を同定し、位置情報の伝達機構を解析する。4)lefty遺伝子自身の発現制御領域を解析し、左右非対称な発現をもたらす機構を決定する。5)左右軸形成に異常を示すマウス変異invの原因遺伝子を同定する。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 leftyの発見から、lefty-2へ、更にinvの同定へと急速に進捗している。
 当初単離したleftyは単一の遺伝子と思われたが、その後の解析により、マウスにおいては2つの類似した遺伝子が存在することが判り、lefty-1,lefty-2とした。lefty-1,lefty-2それぞれを欠損するノックアウトマウスを作製しその形質を解析した。さらに、1)左右の決定におけるlefty-1,lefty-2の役割、2)lefty-1,lefty-2,nodalの左右非対称な遺伝子発現の制御機構、3)lefty蛋白の作用機構・下流遺伝子Pitx2の同定、4)ヒトlefty遺伝子と先天異常との関連、5)マウス変異invの原因遺伝子の同定、6)ニワトリにおける体軸(左右軸を含む)決定の機構、7)カエルにおける左右軸決定の機構、について検討した。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 発生上の大きな問題である左右決定機構について分子レベルで説明する大きな理論への発展が期待される。
 これまでに左右非対称に発現するシグナル分子(lefty-1,lefty-2)を同定、左右決定における役割を解明した。これらの遺伝子が非対称に発現される機構を解明するとともに、lefty蛋白質の作用機構の一端を明らかにした。一方、左右の初期決定に関与するinv遺伝子を同定した。これらより、左右軸形成の初期から最終的な形態形成に至る全貌が近い将来解明できる。
4-3. 総合的評価
 既に猩々蝿やマウスの発生の研究によって、昆虫や脊椎動物の発生過程での前後軸(頭と尾の方向性)の決定機構は知られているが、その左右軸の決定機構は謎に包まれている。濱田らは、それに取り組みlefty遺伝子群を見出して、そのメカニズムに迫りつつある。その研究の独創性は国際的にも極めて高く評価されている。濱田らは先ず、lefty遺伝子が実は2種存在することを見出しlefty-1,lefty-2と名付けた。両者共その欠損マウスは発生初期に左右が決定出来ず致死となること、その役割は他の左右決定因子が正中線を越えて拡散するのを防ぐバリアーとして働くこと、lefty-2はnodalと共に体の左を決定すること、などを証明した。このleftyの上流にはinv遺伝子があるが、この間は未だ繋がっていない。更に又、leftyの下流にはPitx2という遺伝子があり、特にlefty-2の作用を仲介している重要な転写因子であることも判った。この代表者は他のグループとも協力してマウスやヒトのみならず、ツメカエルやニワトリの左右決定機構へも挑戦しており、これからの益々の発展が期待される。

This page updated on Feburary 3, 2000

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