研究課題別中間評価結果(生命3)


1.研究課題名

 線虫発生過程の遺伝子発現プログラム

2.研究代表者名

 小原 雄治 国立遺伝学研究所 生物遺伝資源情報総合センター 教授

3.研究概要

 ゲノムDNAにはその生物を規定するすべての遺伝情報のセット(これをゲノムとよぶ)が書き込まれている。生物が卵から発生して行くいわば「台本」が書き込まれているのである。ゲノムDNAの塩基配列の決定は多くの生物で決定あるいは進行中であるが、われわれはまだ塩基配列から「台本」を読み取るルールを知らない。本研究のねらいは、シンプルで優れたモデル系である線虫を使って、その「台本」を明かにしようとするものである。このために「役者」である遺伝子のすべてを見つけ出し、それらが発生の「いつ、どこで、何を」しているかを網羅的に調べる。その結果から、情報学の手法を駆使して、発生のプログラム(すなわち台本)を逆にあぶりだそうとするものである。線虫でのプログラムは高等生物でも共通なことが多いので,ヒトゲノムなどの機能解析への利用価値は測り知れない。

4.中間評価結果
4-1. 研究の進捗状況と今後の見込み
 線虫の全遺伝子の発生プログラムを明かにするという壮大なプロジェクトであったが、ほぼ満足に進行しつつあると評価する。
 具体的には、ランダムcDNAクローンを部分塩基配列解析により遺伝子に分類し、これをプローブに発生各期のin situハイブリダイゼーションを系統的におこない、mRNAの発現パターンを調べた。各細胞系譜で特異的に転写される遺伝子について、遺伝子破壊実験などから発現カスケードや遺伝子機能を解析し、さらにゲノム塩基配列から、情報学的手法を用いて発現調節領域の解析を行った。
4-2. 研究成果の現状と今後の見込み
 インターネット等に多く公表し、世界的な名声を得ているが、通常のジャーナルにもようやく出しつつあるので世界的評価としても固定しよう。今後も成果は出続けるであろう。
 線虫のゲノムDNAの塩基配列は97%が決定されたが、小原らは相補的なアプローチとして、発現遺伝子の総ざらえをおこなってきた。すなわち、mRNAをDNAの形にかえたcDNAのセットを作成し、塩基配列をもとに分類し、これまでに約 10,000遺伝子を見出した。これは予想される全遺伝子の1/2以上である。これについて、まず発生のどの時期のどの細胞/組織で発現しているかを解析中である。これまでに4,000遺伝子の解析を終え、残りも今年度中に終了予定である。その発現パターンを情報学的手法である似たものに分類する作業(クラスタリング)を進めている。共通パターンの遺伝子群については、発現調節領域や遺伝子機能が共通する可能性が高い。発現調節領域はゲノムDNAの上流領域を情報学的な比較により候補の抽出、実験的検証をおこなっている。遺伝子機能についてはRNAi(2本鎖RNA注入による遺伝子機能阻害)で体系的に検討している。現在はまず初期胚に焦点をあて、この局面に関わる全遺伝子の働きと関係付けを行っている。今後、対象の発生局面を少しずつ後期にずらせて、発生の「台本」読み取り作業を進めて行く予定である。
4-3. 総合的評価
 線虫の発生過程をモデルとして、そのすべての段階における遺伝子発現プロフィールをcDNAの収集によって行おうとする壮大な計画であり、着実に目的へ向けて出発したと言えよう。一方、10万のランダムクローンから高発現クローンを除いた65,000クローンについて両端からの1パスシーケンスを行い、10,702種に分類した。これは全遺伝子の2/3に相当する。最近、C.elegansの全ゲノム配列が明らかになったので、これをどのように取り入れていくか、重要な点であろう。今後の発展が最も期待される研究の一つであるという点で評価者は一致した。

This page updated on Feburary 3, 2000

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