お知らせ


平成11年12月17日
科学技術振興事業団
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「原子波レーザーの実現へ向けた原子波の増幅に成功」

 科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「量子場操作」(研究代表者:清水 明 東京大学助教授)で進めている研究の一環として、原子波レーザーを永続的に発生させるために不可欠な原子波の増幅を、光レーザーを使った励起によって世界で初めて成功した(図1)
 量子論によると原子は粒子であると同時に波でもあることが知られており、原子波レーザーとは、その波の位相が全て揃ったコヒーレントな状態である。これまで、いくつかの研究所が原子波レーザーの研究を行ってきたが、いずれもレーザーに不可欠な増幅作用を確認することはできなかった。
 一方、100万個程の気体原子の集団が極低温で同じエネルギー状態をとり、あたかも1個の原子のように振る舞う現象(ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC))の人工的な実現が1995年に米国で初めて成功した。それ以来、原子波レーザーへの関心が世界各国の研究所で高まり、その実現に向けての研究が精力的に進められている。しかし、現在までの研究では、BEC気体原子から取り出したコヒーレントな原子波の干渉性の測定や非線形現象の観測など、コヒーレント原子波そのものの性質に関するもののみが議論されてきているだけで、レーザーとして機能するために不可欠な原子波の増幅には成功していない。
 今回、世界的に関心を集めているBEC気体原子を応用した原子波レーザー実現に不可欠となる原子波の増幅に成功した。まず、波長780ナノメートル付近で波長のわずかに異なる2本のレーザー光を互いに逆方向から照射し、回折格子を作成した。この回折格子にBEC気体原子波を通し、その一部を回折させた。その後、この状態にある原子波にその原子の共鳴周波数に近いレーザー光を一方向から照射することによって、原子波が10倍程増加することを確認した。また、この増幅された原子波が完全に位相の揃ったコヒーレント原子波であることも独自に開発した原子波干渉計で確認した。このことは、増幅作用によるコヒーレント原子波の発生(成長)を意味するもので、原子波レーザーとしての現象の初めての発現といえる。将来の原子波レーザーの実用化には、BEC気体の代わりに、BEC気体になる前のインコーヒーレントな原子波を増幅媒体として用いることが不可欠であるが、今回の結果はその可能性をも示すもので、原子波レーザー実用化に向けて一歩を踏み出す成果である。
 原子波レーザーはその波長をナノメートルからミクロン程度まで自由に制御できるため、ナノメートルスケールの微細加工を可能にするなど半導体産業を初めとする応用面にも道を拓くものである。併せて、この研究成果は最近世界的に大きな関心を集めているボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)という量子現象を人工的に操作して、量子論の基礎を探求していくという学問的に極めて重要な意義を有する。
 この研究成果は12月17日付けの米国科学誌「サイエンス」で発表される。また、12月21、22日に津田ホール(東京)で行われる科学技術振興事業団主催の第3回「量子効果等の物理現象」シンポジウムで発表される。

 
本件問い合わせ
(研究内容について) 久我 隆弘(くが たかひろ)
東京大学大学院総合文化研究科
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(事業について) 石田 秋生(いしだ あきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5635 FAX:048-226-1164
※補足説明資料  (1) 原子波レーザーの実現へ向けた原子波の増幅に成功
東京大学大学院総合文化研究科 久我隆弘
(2) 図の説明

This page updated on December 17, 1999

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