お知らせ


平成11年11月25日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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「ATP合成酵素のcサブユニットの回転を発見」

  科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「酸性オルガネラ(細胞内小器官)の形成と機能の解明」(研究代表者:二井 将光大阪大学教授)で進めている研究の一環として、ATP合成酵素(蛋白質複合体)の膜内cサブユニットがγサブユニットと連動して回転する(図1)ことを世界で初めて観察することに成功しした。これは、類似のモーター蛋白質を持つ多数のオルガネラの機能解明に役立つものと期待される。この研究成果は、11月26日付の米国科学雑誌「サイエンス」で発表される。

 膜に包まれた生体細胞の中にはオルガネラと呼ばれる小器官が存在する。ミトコンドリアはこのオルガネラの一つで、いわば生物のエネルギー工場である。ヒトを含めた真核生物の祖先は、荒々しい原始地球から現在のように大量の酸素を持つ地球に変わる過程でミトコンドリアと共生し、呼吸によりエネルギーを大量に獲得出来るようになったと推定される。ミトコンドリアは、呼吸によって得られる酸素と食べ物を分解して得られるプロトン(水素イオン)と電子とを反応させて、ATP(アデノシン5-三リン酸)をATP合成酵素内で合成する。合成されたATPは、蛋白質の合成や筋肉の動きのエネルギー源として消費される。
 ATP合成酵素は、α、β、γ、δ、εサブユニットから成るF1とa,b,cサブユニットから成るF0から構成されている。(図1)。このうちγサブユニットはATP分解反応に伴って回転しており、これをモーターになぞられるとα、βサブユニットはいわばモーターの固定子であり、γサブユニットが回転子であることは、以前から知られていた。今回ミトコンドリアの内膜に存在するcサブユニットもγサブユニットと連動せて回転すること(図2)を世界で初めて実証した。このことにより、ATP合成酵素は生体内の極微小モーター蛋白質であることがより明瞭になった。
 膜内外のプロトンの濃度差に対応して、ATP合成酵素へのプロトンの流入が起こる。このエネルギーを利用してATP合成酵素は、ADP(アデノシン5-二リン酸)をリン酸化してATPを合成する。また逆反応として、ATP合成酵素はATPを加水分解しプロトンを逆輸送することも出来る。今回はこのATPの加水分解反応の回転の動力源として利用した。更にcサブユニットは極小で直接観察するのは難しいので、観察に適するように2〜3ミクロン長さの蛍光色素付きアクチン繊維(細胞骨格の主要成分)をcサブユニットのみに結合させ、回転を直接観察することに成功した。
 今回はミトコンドリア内のATP合成酵素のモーター蛋白質としての機能解析に成功したが、生体内には類似のモーター蛋白質を持つオルガネラが多数存在する。これらの機能の解明に大いに役立つものと期待される。

・ATP合成酵素(FoF1)のcサブユニットの回転

(問合わせ先)
(研究内容について) 二井 将光(ふたい まさみつ)
大阪大学産業科学研究所 生体応答科学部門
〒567-0047 大阪府茨木市美穂が丘8-1
TEL:06-6879-8480
FAX:06-6875-5724
(事業について) 石田秋生(いしだあきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL :048-226-5635
FAX :048-226-1164

This page updated on November 26, 1999

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