お知らせ


平成11年7月7日
埼玉県川口市本町4-1-8 
科学技術振興事業団
電話(048)-226-5606(総務部広報担当)

細胞内シグナル伝達因子(JNK)の細胞死誘導による
形態修正メカニズムの解明

 科学技術振興事業団(理事長 中村 守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「発生・分化を規定する新規シグナル伝達ネットワーク 」(研究代表:松本邦弘名古屋大学教授)で進めている研究の一環として、細胞内シグナル伝達因子JNKの細胞死誘導による形態修正のメカニズムを解明した。
 ショウジョウバエの翅(はね)形成時に近遠軸位置情報(各細胞が組織内で自分の存在している位置を知るための情報の一つ)が乱されると、細胞内シグナル伝達因子(細胞外からの情報を細胞内の必要な場所まで伝えていく分子)であるJNKが活性化されて細胞死(アポトーシス:細胞が自ら死を選択する現象)が導かれることにより、異常細胞を殺して組織を正常な方向へ修正することが見いだされた。これらに類似したシグナル伝達系は、ヒトを含めた高等動物にも広く保存されているので、この研究成果は、これらの高等動物の形態修正のメカニズムを知るための重要な手がかりを与えるものと期待される。
 この研究成果は、名古屋大学理学部の安達卓助手と科学技術振興事業団の鎌田このみ研究員らによって得られたもので、7月8日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 これまでにJNK(c-Jun N-terminal kinase)は、紫外線・熱・高浸透圧などの様々なストレスやサイトカイン(各種血球細胞の増殖と分化を制御する生理活性分子)によって活性化されることは判明していた。最近、哺乳類培養細胞において、JNKが活性化されると細胞死が起きるという多くの報告がなされたが、生体内の細胞死制御において、JNKがどれほどの役割を果たしているのかは、未解明のまま残されていた。ショウジョウバエの翅に存在する二種類の分泌性タンパク質であるDppとWgが惹き起こす細胞内シグナル伝達の強度は、翅の先端部に近いほど強く、翅の基部に近いほど弱い。そのシグナル伝達強度によって翅の中の各細胞は自身の存在している位置を知り、適切な分化を遂げる。もしも、DppとWgのシグナル伝達が強すぎたり弱すぎたりして乱されると、正常な翅ができなくなるが、その乱れは発生過程でかなり修正できることが知られていた。
 今回の研究で、DppとWgのシグナル伝達が乱された場所ではJNKが活性化されること、さらに、その場所では細胞死が集中的に発生することが明らかとなった。また、JNKシグナル伝達経路の突然変異によって、JNKが活性化されないようにすると、DppとWgのシグナル伝達が乱されても細胞死がおきず、逆に異常形態はより顕著なものとなった。これらの結果から、JNKはふさわしくない細胞に細胞死を惹き起こし、それを取り除いて発生を正常形態へ修正する働きをしていることが判明した。
 これらに類似した発生メカニズムおよびシグナル伝達系は、ヒトを含めた高等動物にも広く保存されているので、この研究成果は、普遍的な形態修正のメカニズムを知るための重要な手がかりを与えるとともに、将来例えば手足などの形態異常の遺伝子診断等にも応用されるものと期待される。

補足説明

(問合わせ先)
(研究内容について) 松本 邦弘(まつもと くにひろ)
名古屋大学 理学部 
〒464-0814 愛知県名古屋市千種区不老町
TEL:052-789-3000
FAX:052-789-2589
(事業について) 石田秋生(いしだあきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL :048-226-5635
FAX :048-226-1164

This page updated on July 8, 1999

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