お知らせ


平成11年6月30日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話048-226-5606(総務部広報担当)

「化学結合を介さずにつながった二つのかご状分子」

 科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)は、戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「遷移金属を活用した自己組織性精密分子システム」(研究代表者:藤田誠 分子科学研究所助教授(4月1日より名古屋大学大学院工学研究科教授))で進めている研究の一環として、かご構造を持った同一の2分子が、化学結合を介さずに、互いが互いの骨格の隙間を通り抜けてつながった三次元分子(補足説明の図1参照)を、ほぼ100%の収率で合成することに成功した。この三次元分子は小さな分子や金属イオン成分が自発的に集合し、一挙に生成する。この研究成果は分子科学研究所の藤田誠助教授のグループによって得られたもので、7月1日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 ひも状の分子を「結ぶ、縫う、編む」という「分子操作技術」は、次世代の分子素子や分子材料の開発に必要不可欠な基盤技術の一つである。今回は、今までの走査型電子顕微鏡や光学ピンセットを用いて、分子の形状を外部から自在に操作する手法とは異なり、分子が自発的に集合する現象を利用して分子構造を巧妙に設計することにより、物理的操作を加えることなく、分子自らが分子を操ることが出来る手法である。
 これまでにも、藤田らは単純な鎖状分子と金属イオンから、分子の環が鎖のようにつながった(内部連結した)カテナンと呼ばれる化合物を「自己集合」(分子が弱い相互作用で集合し、最も安定な集合状態を求めた結果として特異な形態や機能を持った構造体が生成するしくみで、ちょうど2本のDNA鎖から二重らせん構造が自発的に組上がる現象と同じ。)させることに成功している(Nature,1994)。カテナンのように、二次元的な環状分子を構成単位とする内部連結化合物の例は今日では数多く知られているが、三次元的なかご状分子を構成単位とした例は知られていない。単純な環の内部連結に比べ、かご構造の内部連結は極度に困難が伴うからである。

 今回、「自己集合」を利用して、小さな分子や金属イオン成分から三次元的なかご状分子が2分子で内部連結した化合物を、ほぼ100%の収率で合成することに成功した。「自己集合」を利用して構造体(今回はかごが内部連結した構造)をつくるためには、それを構成する小成分間の相互作用部位の位置や方向を合理的に設計することが鍵となる。
 まず、三方向に分岐した分子の各端に、金属イオンと結び付く部位を配置した化合物を2種類合成した。次に、これらの化合物を溶液に溶かし、ここに金属イオン(今回はパラジウムまたは白金イオン)を添加すると、二種の分岐した化合物は金属イオンによって連結し、かご状の骨格をつくるとともに、そのかご構造が2分子でお互いの隙間を通り抜けた構造体に収束した(補足説明の図2参照)。このようにして得られた三次元の内部連結した化合物は、生成時に芳香環が4枚重なりあった構造をとっており、この芳香環の重なりあいが今回の「自己集合」の駆動力であると考えられる。

 この研究成果は分子を三次元的に編み込むことを可能にした高度な「分子操作技術」であり、「新しい物質構築手法」を示したものである。内部連結した化合物は、その特異な結合に基づいた特異な高分子化合物の創製や、分子スイッチ・分子メモリ等の新機能・新物性の創出も期待でき、実用化の可能性を秘めている。

補足説明

(問合わせ先)
(研究内容について) 藤田 誠(ふじたまこと)
名古屋大学大学院工学研究科物質化学専攻
〒464-8603 名古屋市千種区不老町
Tel: 052-789-4668
Fax: 052-789-3199
(事業について) 石田秋生(いしだあきお)
科学技術振興事業団 基礎研究推進部
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL :048-226-5635
FAX :048-226-1164

This page updated on July 8, 1999

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