お知らせ


平 成 11年6月22日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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動物の形態形成に働く新しい情報伝達経路を発見

 科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「発生・分化を規定する新規シグナル伝達ネットワーク」(研究代表者:松本邦弘名古屋大学教授)で進めている研究の一環で、動物の形態形成を制御する新たな細胞内情報伝達経路が見いだされた。
 この研究成果は名古屋大学とオレゴン大学の共同研究によって得られたもので、6月24日付けの英国科学雑誌「ネイチャー」で2論文が発表される。
 一個の受精卵から完全な体が形成される過程では、受精卵細胞は分裂増殖を繰り返し、それぞれに異なる運命を与えられることにより様々な組織あるいは器官に分化していく。これまでに、この細胞の運命の決定が、どのようにして行われているのかについて多くの研究がなされてきた。しかしながら、その機構の多くの部分がまだ解明されていない。
 今回、この細胞の運命決定に重要な働きをしている、新しい情報伝達の仕組みが明らかになった。この発見は、線虫(C.elegans)の形態が形成される際、突然変異を引き起こす異常細胞の解析をきっかけとしてなされた。線虫は、体全体がわずか1,000個程の細胞で構成される原始的な動物であるが、神経、筋肉、腸などの基本的な器官を備えていることから、このような研究の優れたモデル系となっている。線虫の筋肉と腸を構成する細胞群は、もともと一つの細胞に由来する。この細胞が二つに分裂する際に、一方の細胞は将来筋肉となり、もう一方は腸になるように運命決定の情報が与えられる。今回、様々な突然変異体、例えば腸が出来ないものや筋肉が出来ないものを解析していくと、この筋肉と腸の分化の方向を決定する情報には2つの異なる伝達経路が関係していることが明らかになった。
 一つは既に知られているWntと呼ばれる分泌性のタンパク質が関係した経路である。そして、今回新たに発見されたものがTAK1とNLKと呼ばれる2つのリン酸化酵素(蛋白質等にリン酸基を結合させる働きを促進する蛋白質の一種)とTAK1を活性化するタンパク質(TAB1)が関係する経路である。これらの酵素とタンパク質の関係を培養した哺乳動物の細胞で調べたところ、TAB1はTAK1を活性化し、TAK1はNLKを活性化するという流れがあることが判明した。
 さらに、NLKは、細胞の運命決定に関与する遺伝子の発現を調節しているTCFと呼ばれる転写因子(DNAからRNAが形成される初期の反応に係わる蛋白質)の働きを、直接的に制御していることが明らかになった。これらの結果は、TAB1→TAK1→NLK→TCF→遺伝子の発現→細胞の運命決定という情報伝達経路が、発生の過程において重要な働きをしていることを示している。
 これらの研究成果は、動物がどのようにその形を形成してゆくかという発生のプログラムの解明に大きく貢献するものと期待される。

補足説明

説明図

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名古屋大学 理学部
松本 邦弘(まつもと くにひろ)
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This page updated on July 9, 1999

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