お知らせ
平成11年6月2日 埼玉県川口市本町4-1-8 科学技術振興事業団 電話(048)-226-5606(総務部広報担当) |
科学技術振興事業団(理事長 中村守孝)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「脊髄性筋萎縮症発症メカニズムの解析」(研究代表者:辻本賀英)の研究の一環として、細胞死(アポトーシス)を抑制する機能を持つがん遺伝子の一種である、遺伝子(Bcl-2)やその類似遺伝子(Bcl-xLやBax)の機能の分子機構を解明した。この研究成果は、大阪大学大学院医学系研究科バイオメディカル教育研究センター遺伝子学研究部の辻本賀英教授のグループによって得られた。この成果は、6月3日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。
(研究の背景)
生物の細胞には、自ら積極的に死んでいく機構(アポトーシス)が備わっている。アポトーシス制御は生体の恒常性維持に重要であり、生命維持に欠かせない細胞活動の一つである。アポトーシス異常が、がんや神経変性疾患などの多くの疾患発症の原因ともいわれ、その機構が分かれば、がんや脊髄性筋萎縮症などの神経変性疾患の治療に繋がるものと期待されてきた。
Bcl-2遺伝子は1985年に辻本らが発見したもので、その遺伝子産物(Bcl-2たんぱく)が増えるとがんが発生することが知られている。また、その機能が低下すると神経変性疾患の一つである脊髄性筋萎縮症が生じることを1997年に辻本らが明らかにした。Bcl-2たんぱくに構造が類似した約10数種類のたんぱくの総称をBcl-2ファミリーという。Bcl-2ファミリーのあるもの(Bcl-2やBcl-xLなど)はアポトーシスを抑制するが、他のもの(例えばBaxなど)はアポトーシスを促進することが知られていた。しかし、Bcl-2ファミリーたんぱくの作用メカニズムは明らかにされていなかった。
一方、辻本グループを含む複数の研究室からの最近の研究成果は、アポトーシスの際にチトクロムC注1がミトコンドリア注2から放出され、このチトクロムC放出がアポトーシスの鍵を握っていることが明らかになっていた。
(研究の成果)
辻本・清水らは、今回初めてBcl-2遺伝子産物によるアポトーシス抑制機能のメカニズムを分子レベルで解明した。
具体的には、チトクロムCが放出される際、ミトコンドリア外膜上のたんぱく質性の細孔であるVDAC(Voltage-Dependent Anion Channelの略)を通過することを発見した。通常は、Bcl-2やBcl-xLなどのたんぱくが、VDACに結合し、細孔を縮小させるためチトクロムCは細孔を通過できず、そのため、アポトーシスは起こらないこと、また、BaxなどのたんぱくがVDACに結合すると、細孔が拡大し、その結果チトクロムCが通過し、アポトーシスが起こることを発見した。
この結果は、アポトーシス制御の破綻によりおこるがん、自己免疫疾患、あるいは神経変性疾患の治療のために極めて重要な発見である。また、Bcl-2ファミリーたんぱくを始め、今回の成果をもとに新たに見い出されるであろうアポトーシス抑制物質あるいはアポトーシス促進物質は、各種疾患における医薬としての用途が大いに期待できる。
注1: | 細胞の呼吸に欠かせないたんぱく質の一種 |
注2: | 生物の細胞内にあり、呼吸に関係する一連の酵素を含む細胞のエネルギー生産の場。内外2枚の膜に包まれた細胞小器官 |
・補足説明
(問合わせ先) | |
(研究内容について) | 辻本賀英(つじもとよしひで) |
大阪大学大学院医学研究科 バイオメディカル教育研究センター 遺伝子学 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2 TEL:06-6879-3360 FAX:06-6879-3369 |
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(事業について) | 石田秋生(いしだあきお) |
科学技術振興事業団 基礎研究推進部 〒332-0012 川口市本町4-1-8 TEL:048-226-5635 FAX:048-226-1164 |
This page updated on June 16, 1999
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