1.研究領域の概要 | ||||||||||
知覚・認識・理解・問題解決などの高度で柔軟な「知」の働きに着目し、その発現のメカニズム(構成)を神経化学、数理科学などさまざまな視点から追求するものです。具体的には、神経細胞、脳神経系さらには行動そのものを対象とし、「知」の発現につながる物質、構造、理論などを明らかにする実証的あるいは理論的研究を含む。 | ||||||||||
2.研究課題、研究者名 | ||||||||||
別紙一覧表 | ||||||||||
3.選考方針 | ||||||||||
選考は「知と構成」領域に設けた選考委員会(10名)で行う。 選考の基本的な考え方は以下の通り。
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4.選考の経過 | ||||||||||
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5.研究実施期間 | ||||||||||
平成7年10月〜平成10年9月 | ||||||||||
6.領域の活動状況 | ||||||||||
領域会議:12回 研究報告会:東京2回、大阪1回 領域総括の研究実施場所訪問:研究開始に際し全研究者訪問。その後研究場所を変わった際に新研究場所を訪問。 | ||||||||||
7.評価の手続き | ||||||||||
領域総括が個人研究者からの報告・自己評価を基に必要に応じて領域アドバイザーの協力を得て行った。
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8.評価項目 | ||||||||||
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9.研究結果 | ||||||||||
「知と構成」領域2期研究者10名が3年間の研究期間を終えた。ここに研究結果の評価の概要を記す。本領域では、「知」の発現につながる物質、構造、理論などを明らかにする実証的あるいは理論的研究をとりあげているが、個人の発想を育てるという「さきがけ研究21」の性格から、10名の研究者がとりあげた対象も手法も多様であった。従来のディシプリンに従って並べると、大きくは、遺伝子・分子生物学的研究、神経生理学的研究、認知行動学的研究、情報科学的研究などに分けられる。しかし、「知と構成」という領域にあつまった研究者に、「知という高次の脳のはたらきが、遺伝子によってどこまで決まっているか、決められないものは何か」という問いを与えることによって、トランスディシプリナリな研究の発展も期待した。この問いは、遺伝子を神経細胞に、あるいは、神経ネットワークに置換えても成り立つ問いである。 遺伝子解析の手法を用いた研究としては中越、坂口、岡村の3人の研究があげられる。 中越英樹さんは、視覚認識という高次の機能に挑戦した。遺伝学的解析手法の確立しているショウジョウバエを用い、視覚異常行動を示す突然変異体から原因遺伝子dveをつきとめ、また、これに支配される細胞群(Dve標識細胞)を遺伝的に標識し、その活動が視覚認識行動に必須のものであることを明らかにした。 坂口博信さんは、キンカチョウの歌学習の分子機構に挑戦した。領域会議での議論で、生物共通の長期記憶のスイッチ分子として転写因子CREBの存在を知った坂口さんは、これを分子マーカーとして、歌学習時のシナプスの可塑性にかかわるニューロンおよび神経回路を明らかにする研究に取り組み、その結果、同種の歌を聞かせたときに、そのパターンに特異的に反応してCREBの燐酸化が起こるニューロンを発声中枢に見い出した。これは歌学習時の分子機構解明の糸口になる発見といえる。 岡村康司さんは、まず、生きた細胞でイオンチャネルの分布や動態を観察できる技術の確立を目指した。遺伝子工学的手法で、ホヤ胚のCaイオンチャネルにクラゲの蛍光タンパク(GFP)取込み、その蛍光によってCaチャネルを可視化することに成功した。ホヤ胚はニューロン数が少なく、一つひとつのニューロンを同定でき、その分化を経時的に追跡できるという特徴があり、イオンチャネルの可視化の技術の確立は、学習や記憶の基盤を探る上で、重要な一歩といえる。 行動と神経生理学的実験を組み合わせた研究は、安島、入来、桜井の3人の研究者が取り組んだ。 安島綾子さんは、ラットのひげが空間探索、特に質感センサーとしてすぐれた道具であることに着目し、質感が隣り合ったひげへの刺激の時間差によるという仮定で、それを検出する神経回路を、光計測法と抑制性神経回路遮断薬を用いた実験から、推測し得る可能性を示した。さらにそこから、時間情報の脳内表現の問題へ挑戦しようとしている。 入来篤史さんは、手の動作に関わる体性感覚と視覚のバイモーダルニューロンのはたらきが、道具を使うことによって、道具の機能に応じて拡張するという現象を、ニホンザルを用いて明らかにした。また、変換された視覚刺激を与える実験は、「心的象徴操作機能」の神経科学的研究に道を開いたもので、高く評価される。 桜井芳雄さんの研究課題は、記憶情報処理の基本コードとなるダイナミックな結合変化を示す神経回路(セル・アセンブリ)の実体を実験的に明らかにすることであった。桜井さんは、ラットに視覚、聴覚、複合の3種の弁別課題を与え、そのときに活動するニューロンの組みを丁寧に調べた。その結果、セル・アセンブリ説を支持する明確な実験結果をはじめて示すことができたといえる。 理論・モデルと行動実験を組み合わせた研究は、開、片山両研究者が行った。 開 一夫さんは、幼児の空間認知能力の発達のメカニズムを、移動ロボットのシミュレーション実験を通した構成的アプローチによって探究することを目指した。人のメンタルトラッキングの能力に着目し、その学習機構のモデルを構成し、シミュレーション実験によって、移動能力の獲得の重要性と、段階的な発達の必要性を明示した。 片山正純さんは、手と腕の運動学習において、学習の初期には腕を柔らかく、学習がすすめば硬くするという粘弾性の調節機構を取込んだモデルを提案し、運動学習が際立って向上することを示した。低次の運動系を利用したシンプルな戦略をとっていることで、運動学習に関する多くのモデルのなかで特色のあるものとして評価される。 これらの構成的研究が、行動実験のあたらしいパラダイムの提案につながることを期待している。 最後に、金道、志沢の両研究者による理論的アプローチがある。 金道敏樹さんは、神経回路のダイナミクス、学習およびそれらを統一的に扱う幾何学的理論の構築を目指した。連想記憶のダイナミクスを球面上の流れとして記述するという幾何学的手法をとり、「忘却」が時系列の学習に有効であることを示した。時間的にも場所的にも局所的なシナプス結合の変化という規則によって、時間的に変化する刺激を記憶できることをユニークな手法で示したもので、新しい挑戦といえる。実験科学へのインパクトを期待したい。 志沢雅彦さんは、入出力関係に多義性のある根とワークの学習と評価をきわめて効率的に行うことのできる多価正則ネットワークを提案した。さらに、標準正則化理論を精密化することによって、多価正則化ネットワークが、代数多様体を直接表現できるように拡張できることを示した。これは非常に少数の例から大局的な学習ができることを意味する。 以上、「知と構成」領域2期生の研究結果についての評価を記した。はじめにも述べたように、対象も手法も異なる研究者が、「知」というキーワードで一つの領域に集まり、領域会議や電子メールのやり取りを通じて、学会など同一のディシプリンでの討議だけでは得難い「知識」と「知恵」の交流が行われ、それが各自の研究に反映され、よい結果が得られたと確信する。 | ||||||||||
10.評価者 | ||||||||||
領域総括 鈴木 良次 |
(参考)
(1)外部発表件数 | ||||||||||||||||||||
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(2)特許出願数 | ||||||||||||||||||||
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(3)受賞等 | ||||||||||||||||||||
2期終了研究者はなし | ||||||||||||||||||||
(4)招待講演: | ||||||||||||||||||||
・坂口博信(1996)鳥歌学習臨界期の脳可塑性を制御する物質を求めて、第7回日本比較生理生化学会大会・シンポジウムB:鳥の歌の神経科学―物質・情報・行動―(1996.7.19、大阪) ・ Sakurai, Y. (1997) Cell-assembly coding in several memory porcesses , Sixth Conference on the Neurobiology of Learning and Memory, University of California,Irvine(1997年10月) 他 10件 | ||||||||||||||||||||
(5)領域アドバイザー氏名(肩書きは現職) | ||||||||||||||||||||
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This page updated on September 1, 1999
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