研究課題名: | 簡単な分子を使って分子を見分ける | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
研究者名: | 田中 康隆 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
研究の狙い: | 分子の中には鏡像異性体として存在する分子がある。これら分子は光学活性分子と呼ばれる。全く同じ構造を持ちながら鏡像異性体の一つは薬として働き、もう一つは毒として作用することさえある。つまり簡便にこの鏡の関係(絶対構造)を判別する事はとても大切である。ここでは合成容易で構造が簡単な分子を用いて、対象となる光学活性分子の絶対構造判別を容易に行う方法を開発した。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
研究結果及び自己評価: | フェノールの類縁分子であるレゾルシノールはアルデヒド類と反応させることにより非常に容易かつ高収率でレゾルシノール環状四量体を与える。この環状四量体は丁度お椀の様に中心に空孔を持つ分子の形を持っている。アミノ酸や糖などの光学活性分子を環状四量体と粉末状態で乳鉢の中で数分すり混ぜるだけで、アミノ酸や糖はこの四量体の空孔の中に入ってゆき、新たに「アミノ酸−四量体」あるいは「糖−四量体」の複合錯体をつくる。つまり化学反応が、フラスコや溶媒を使わず粉末同士を混ぜただけで進行した例である。 光学活性分子の絶対構造を簡便に見分ける分光法として、円二色性分光法(CD)は広く用いられている。ところがこの分光法が対象と出来る分子は、その分子の構造中にベンゼン環などの紫外−可視光線の領域に吸収を持つ、いわゆる発色団を持っていなければならない。アミノ酸や糖のように重要な分子でありながら、発色団を持たない事から CD 分光法で容易に絶対構造を分析することは出来ない。ところがここで生成した、アミノ酸−四量体、糖−四量体の複合錯体は、錯体分子中に環状四量体由来のベンゼン環を持つことから、CD 分光法で空孔中に入ったアミノ酸や糖の絶対構造を判別することが可能となる。つまりアミノ酸や糖と環状四量体の固体−固体反応とそれに続く固体中での CD分光法測定という新たな手法により、多くの分子の絶対構造を容易に判別できることが可能となった。 また、長鎖アルキル基を導入し水にも油にもなじみやすい性質(両親媒性)を持たせたレゾルシノール環状四量体は水中で擬似細胞構造を持つベシクルを形成する事を見出した。細胞は生体内で他と自己細胞を見分けるため細胞膜表面で、糖分子などの分子の識別を行う。このベシクルは水中で特定の糖のみをその膜表面に固定化する事を確認した。やはり水中においても四量体が持つ空孔の糖分子が挿入していったと考えられる。 「合成容易な簡単な分子を用いて機能を出す」ことに取り組みました。研究開始当初の目的とは異なる方向に研究が進行してしまいましたが、固体−固体反応や固相中でのCD測定の新たな応用の範囲を示す事により、分子の簡便な絶対構造識別法を提供できたのではないかと思っております。研究期間の3年間では、構想−実験−結果の3段階をすべてやり遂げることは出来ませんでした。特に最後の結果の公開に関してはまだまだ途中の段階です。研究期間は終了しましたが、残ったことをやり遂げて行きたいと思います。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
領域総括の見解: | 中央に空孔を有する環状化合物分子を開発し、この空孔にとらえられた、発色団を持たないアミノ酸や糖の光学活性を識別するのに成功したことは評価できる。またこの化合物にアルキル基を結合させ両親媒性を付与し、ベシクル状にして高分子を捕捉させた。生体細胞表面における機能のシミュレーションとして興味がある。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
主な論文等: |
(特許、受賞、招待講演等):
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This page updated on September 1, 1999
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