研究課題名: | 量子計算の実現に向けて | ||||||||||||||||||||||||||||||
研究者名: | 竹内 繁樹 | ||||||||||||||||||||||||||||||
研究の狙い: | 量子計算は、これまでの計算機が「0」と「1」のどちらかの値をとる「ビット」を計算単位とするのに対し、「0」と「1」の重ねあわせ状態をとる「キュビット」を単位とする、新しい計算の概念である。1994年にこれまで桁数の増大に対して指数関数的に時間のかかっていた因数分解を、桁数に比例する時間で行える高速量子計算アルゴリズムが発見されたことにより、一躍脚光を浴びている。しかし、これまでに提案されてきた実現方法では、極低温などの極限状態を作り出す技術や、非常に高精度で複雑な実験装置を必要とするため、複数(たとえば3個)のキュビットによるアルゴリズム実行することは大変困難であった。 我々は、この実現の困難さを回避しながら、実験的に量子計算のアルゴリズムを研究する方法として、光子の光路と偏光をキュビットとして用い、それらに対するゲート操作は偏光回転板やビームスプリッターなどを用いて行う方法を提案した。今回のさきがけ研究では、4bitの入力を高速で分別する量子アルゴリズム(Deutsch-Jozsaアルゴリズム)を実行可能なプロトタイプの構築をめざした。また、その過程で単一光子状態の量子状態制御、計測技術の開発行った。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
研究結果及び自己評価: | さきがけ研究によって、DeutschとJozsaによって提案された量子計算アルゴリズムを、3qubitを用いるものについてプロトタイプを構築し、その動作検証に成功した。この規模での量子計算アルゴリズムの実験は、単一量子を用いるものとしては世界でも初めてのものになる。また、この構築の過程で、Deutsch-Jozsaのアルゴリズムに対応した実験系を具体的に提案しその動作の理論的な裏付けを行うとともに、「これまでに比べて非常に明るい、単一光子源の開発」「世界最高の量子効率(88%)をもつ光子検出器の開発(スタンフォード大山本喜久教授ERATO量子ゆらぎプロジェクトとの共同研究)」などの基礎となる光学技術の開発に成功した。 全体的な自己評価としては、当初目標としていた4bitの量子計算実験検証に成功したことには満足している。しかし、期間中にやり残したことも多々ある。たとえば、相補的なテストベッドとして最近現れたNMR量子計算機と比較しながら、線形光学素子によってのみ実行可能な実験(量子エラー訂正など)への発展的なとりくみを行う事、また、高量子効率光子検出器を用いた量子力学の非局所性の完全な検証実験などである。当初の光学実験に対する知識不足などで、実験の立ち上げに時間をとられた事が原因の一つと考えている。また、後半は実験に追われ、発展的課題の理論的な研究に十分取り組めなかった。 今後は、計算の誤りを自動的に補正してしまう量子エラー訂正コードの動作検証や、「計算が終わったかどうかを確認しても大丈夫」であることを検証する量子ストップビット実験など、線形光学素子による量子計算機の特徴を生かした検証に取り組むとともに、量子力学の本質を利用する量子情報通信処理の分野へと広く研究を発展させたい。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
領域総括の見解: | 単一光子に対してゲート操作として偏光回転板ビームスプリッター等を用い、一つの量子計算アルゴリズムの実証実験に成功したことは成果として評価できる。単一光子を用いての更に発展したアルゴリズムの実証実験の成功を期待したい。 | ||||||||||||||||||||||||||||||
主な論文等: |
(特許、受賞、招待講演等):
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This page updated on September 1, 1999
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