研究課題名: | 走査型トンネル顕微鏡でスピンを観る | ||||||||||||||||||||||||||
研究者名: | 末岡 和久 | ||||||||||||||||||||||||||
研究の狙い: | 本研究の目標は、走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscopy;
STM)を用いて表面電子状態のスピン計測を可能にし、新しい磁性研究への道を拓くことであった。すなわち、スピン偏極した表面電子状態を有する金属磁性体などの導電性試料表面を測定対象とし、STMを応用してスピン偏極トンネル電流を観測することで、表面電子状態のスピン偏極度をSTMの空間分解能で計測することを目指した。そのためには、スピン偏極トンネル効果がトンネル電流の大きさの違いとして検出される探針、すなわちスピンプローブを開発する必要があり、磁性体試料との磁気双極子相互作用が小さく、表面電子状態の空間分布や仕事関数の違いなどによるトンネル電流変化成分とスピン依存成分の分離が可能なスピンプローブが必要とされる。本研究では、円偏光励起によりスピン偏極電子の励起と制御が可能なせん亜鉛鉱構造III-V族化合物半導体、特にGaAsに注目しスピンプローブとしての可能性を探った。 | ||||||||||||||||||||||||||
研究結果及び自己評価: | 本研究ではまず、半導体スピンプローブの作成技術に関する検討を行った。へき開、化学エッチング、FIB加工、薄膜へき開などについて検討した。特に、FIB加工法では、先端半径が10nm以下の鋭い探針の作成が可能であることを見出し、さらにGaイオン照射により損傷を受けできた表面加工層が塩酸で除去可能であることも示した。このことにより探針先端部の結晶状態と電子状態を評価するための電界放射顕微鏡測定ならびに電界イオン顕微鏡測定が容易にできるようになったが、スピン分析に必要な十分な電界放射電流が得られていない。FIB加工GaAs探針にCsとOを吸着させたものでは、バルクで期待されるより大きなスピン偏極度を持つ光電子放出が測定されたが、その起源について明らかにするまでには至らなかった。また、GaAs/AlGaAs薄膜をへき開して作成できる薄膜へき開探針構造を提案した。この探針では試料面内と試料に垂直なスピン計測が可能であると期待され、MgO(001)表面上にエピタクシャル成膜したFe薄膜を試料とした実験において面内成分測定可能性を実証することができた。しかしながら、観測された現象についての定量的解釈は十分できず、また、探針先端状態の再現性
および安定性に関する課題も残されているが、探針先端のスピン偏極状態の研究を更に進めることによりこれらの問題を乗り越え、汎用性のある原子分解能スピン計測手法を確立できるものと考えている。 | ||||||||||||||||||||||||||
領域総括の見解: | GaAs結晶を用いて円偏光励起による半導体スピンプローブの作成を試み、試料のスピン偏極状態に依存する信号が得られるまでに到達したことは評価される。 | ||||||||||||||||||||||||||
主な論文等: |
(特許、受賞、招待講演等):
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This page updated on September 1, 1999
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