研究課題別研究評価


研究課題名: 電子を運ぶ人工の蛋白質やペプチドを創る
研究者名: 篠原 寛明
研究の狙い:  ある特定の物質を見分け、電子の受け渡し(酸化還元反応といいます)を触媒する酸化還元酵素蛋白質と、金属や半導体などの電極材料との間のスムーズな電子移動を実現することができれば、その特定物質を電流として迅速に計測するバイオセンサーや、電気や光のエネルギーによって特定物質の変換や合成を効率よく行うことができるリアクターを開発できると期待されています。しかし酸化還元酵素の酸化還元部位は一般にポリペプチドの殻の中に埋め込まれているため、電極材料との間の直接的な電子移動を行うことはそう簡単ではありません。両者間の電子移動を媒介し、機能を連結するためのインターフェイス場の設計が重要となっています。
 本研究では、生体系の電子リレー分子システムに学び、酸化還元酵素蛋白質と金属電極材料とのスムーズな電子移動を媒介すると期待できるインターフェイス分子として、酸化還元機能基が空間位置固定され、さらに天然の酸化還元酵素や電極材料と特定の位置、向きで連結できる人工の酸化還元機能性ペプチドや蛋白質を創ることを目指しました。

研究結果及び自己評価:   アントラキノニルアラニン、フェロセニルアラニンなどの酸化還元機能性非天然アミノ酸を化学合成し、第一にN-カルボキシ無水物法によりこれらのアミノ酸を重合することによってポリエチレングリコールやポリベンジルグルタメートとのブロックポリマーながらαヘリックス構造を取るペプチドを合成することに成功しました。また有機溶媒中においてこのヘリックスペプチドが電極との電子移動が可能であることを示しました。
 第二に細胞外蛋白質合成系を用いてこれらの非天然アミノ酸を部位特異的に導入した人工結合蛋白質の生合成に成功しました。合成した蛋白質は本来のリガンド分子結合能を保持しており、リガンドを化学修飾した電極表面に特異結合させることによって蛋白質と電極間の電子移動を実現することができました。
 さらに酸化還元酵素と人工酸化還元ペプチドや蛋白質とをつなぐ電子リレー分子として補酵素誘導体、アミノヘキシルフラビンアデニンジヌクレオチドを合成し、その酸化還元機能およびアポ酵素との再構成による酵素活性発現について確かめました。
 以上のように、非天然のアミノ酸を組み込むことによって無機電極材料との電子移動が可能な人工ペプチド、人工蛋白質を世界に先駆けて作製できた点は大きな成果と考えています。しかし酵素蛋白質と電極とのインターフェイス分子として機能させるには、レドックスサイトが電極表面近くに固定できるようなペプチドの作製や、複数の部位へ酸化還元アミノ酸を部位特異的に導入した蛋白質の作製が必要であり、期間内の目標達成度は60%程度です。
 研究期間終了後すでに取り組んでいますが、固相合成法によりシークエンスを制御し主鎖骨格自体でヘリックス構造を取る酸化還元ペプチドを創る予定であるほか、部位特異的導入法と化学修飾法を組み合わせて酸化還元機能基導入蛋白質の合成を進め、補酵素誘導体と組みあわせてインターフェイス分子として構築し、酵素-電極間電子移動の実現をぜひとも図りたいと考えています。
領域総括の見解:  酸化還元活性を有する非天然アミノ酸を部位特異的に天然蛋白質に導入し、人工結合蛋白質の生合成に成功した手法は、多くの応用の可能性をもつものとして評価される。
主な論文等:
1. M.Kira, T.Matsubara, H.Shinohara, M.Sisido, Synthesis and Redox Property of Polypeptides Containing L-Ferrocenylalanine, Chemistry Lettes,1997, 89-90 (1997).
2. T.Matsubara, H.Shinohara, M.Sisido, Syntesis and Conformation of Poly(L-2-anthraquinonylalanine) , Maculomolecules, 30(9), 2651-2656(1997).
3. H.Shinohara, T.Matsubara, M.Sisido, Electrochemical Properties of Poly(L-2-anthraquinonylalanine) , Maculomolecules, 30(9), 2657-2661(1997).

4. H.Shinohara, T.Kusaka, E.Yokota, R.Monden, M.Sisido, Electron Transfer between Redox Enzymes and Electrodes through the Artificial Redox Proteins and Its Application for Biosensors, Sensors & Actuators Part B (Chemical),in press.

(特許、受賞、招待講演等):
受賞: 1件
The 7th International Meeting on Chemical Sensors(第7回化学センサー国際会議、1998年7月、中華人民共和国 北京市)における発表で優秀論文賞を受賞
講演題目:Electron Transfer between Redox Enzymes and Electrodes through theArtificial Redox Proteins and Its Application for Biosensors

招待講演: 国内学会1件
篠原寛明、『生体分子/無機材料界面のインターフェイス設計』科学技術庁金属材料技術研究所COEセミナー、つくば、1998年6月19日

This page updated on September 1, 1999

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