研究課題別研究評価


研究課題名: 金属表面と分子の化学結合を観る
研究者名: 宗像 利明
研究の狙い:  分子が表面に吸着すると、吸着結合に由来する新たな占有準位と非占有準位がフェルミ準位(EF)近傍に形成される。これら吸着由来の準位は表面での化学反応に重要な役割を果たすが、通常の測定法では観測が容易ではなく、実験的情報が不足している。ここでは、レーザーを光源とした2光子光電子分光法で吸着由来の結合・反結合軌道を観測し、吸着の微視的機構を解明する。
研究結果及び自己評価:
研究結果
 上記のねらいを実現するため、本課題では高エネルギー分解能と高時間分解能を両立させた2光子光電子分光装置を作成した。その結果、電子エネルギー分解能20meV、時間分解能100fsを実現した。この装置を用い以下の成果を得ることができた。
(a) ベンゼン吸着Cu(111)面の2光子光電子分光から、吸着ベンゼンの電子励起状態をEFの1.0eV上に見いだした。この励起状態はエネルギー的に気相ベンゼンの最低3重項状態と近い。また、数本の微細構造が観測され分子の振動構造との関連に興味が持たれる。
(b) さらにEFの0.3eV下に吸着由来の占有結合準位が観測された。結合に関与する電子数は基板中のものに比べて遙かに少ないが、鏡像準位への共鳴によって吸着結合準位を高感度で検出できた。
(c) また、光電子の角度分解測定から吸着由来の結合準位が表面上の電子の運動量に対して分散することが明らかになった。分散は、結合状態が空間的に非局在化していることを示しており、吸着分子間の長距離相互作用の原因を示唆する結果となっている。
自己評価と展望
 本研究から、吸着誘起の電子状態を観測する手がかりが得られた。しかし、電子励起状態の微細構造の帰属は未確定であり、当初予定していた時間分解測定を行うこともできなかった。装置の整備と表面の再現性の確保に時間をとられ、まとまった成果にいたらなかったことは残念である。2光子光電子分光法を吸着系の一般的測定法にまで高めるには今後、測定例を増やすとともに理論との詳細な比較ができる系での精密な測定が必要である。
 2光子光電子分光では、これまで観測が困難であった吸着由来の準位が明瞭に観測されるので、今後の表面での動的過程や化学反応の解明と制御に至る指針を得るのに寄与するところが大きいと期待される。特にスペクトル分解と時間分解の両面から表面での電子ダイナミクスを観測できることは2光子光電子分光法の特徴である。吸着系に対してこの特長を生かした研究の展開を予定している。

領域総括の見解:   銅表面に吸着したベンゼン分子を対象に、2光子光電子分光の実験を行ない、金属表面吸着分子の電子構造の解明にこの2光子光電子分光が有力な手段であることを見事に示した。金属表面吸着分子の電子構造は、なお、多体問題を含めて解明されるべき多くの問題があり、この手法が有力である系での研究の進展が期待される。

主な論文等:
1. T. Munakata, T. Sakashita, M. Tsukakoshi and J. Nakamura "Fine structure of the two-photon photoemission from benzene adsorbed on Cu(111)." Chem. Phys. Letters, 271, 377-380 (1997).
2. T. Munakata, T. Sakashita, and K. Shudo "Two-Photon Photoemission from Benzene Adsorbed on Cu(111)." J. Electron Spectrosc. Rel. Phenom., 88-91, 591-595 (1998).
3. T. Munakata and K. Shudo "Two-photon photoemision from adsorption-induced electronic states of benzene/Cu(111)." Surf. Sci., to be published.
4. T. Munakata "Dispersion of an adsorption-induced electronic state of benzene/Cu(111)." J. Chem. Phys., 110, 2736-2737 (1999).

(特許、受賞、招待講演等):
招待講演: 国内2件
1. 「2光子光電子分光法による吸着分子の電子励起状態の研究」宗像利明 日本物理学会1998秋の分科会, 1998.09(沖縄宣野湾市)
2. "Dispersion and linewidth of adsorption-induced electronic states" Muankata Toshiaki, NEDO Symposium "Frontiers in electronically induced surface processes" (1999.02.湘南国際村センター)

This page updated on September 1, 1999

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