研究課題別研究評価


研究課題名: 表面を動きまわる電子
研究者名: 長谷川 幸雄
研究の狙い:  物質表面には、特有の電子状態を持ち表面に局在した2次元的電子状態を形成するものが知られている。ナノスケールの空間分解能で表面の原子・電子状態を観察することのできる走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、この2次元電子系の振る舞いを調べ表面の局所構造との相互作用を明らかにすることを目的とする。
研究結果及び自己評価:
研究結果
(a) 低温で稼動する超高真空STMを開発し、原子レベルでの分解能で表面原子像観察や電子状態測定ができるシステムを開発した。STMは振動を非常に嫌うが、低温化による冷却源とユニットとの接触による振動の伝達を極力押さえることにより、液体窒素温度下でのシリコン表面原子像の観察に成功している。現在、液体ヘリウム温度下で作動する装置を開発中であり、この完成によってさらに研究を進めていけるものと考えている。
(b) 表面電子状態のエネルギー準位を決める上で重要となる仕事関数の値を、STMを用いて局所的に測定できる方法を開発した。この方法を用いて金属薄膜上での仕事関数値の膜厚依存性を測定し、系によって単調に変化する場合やオーバーシュートする場合があることなどを見出した。また第一原理計算に基づく理論的考察から表面電子状態のエネルギー準位が仕事関数の振る舞いに影響を与えることを明らかにすることができた。また局所的な仕事関数の測定から、表面の原子構造が仕事関数に与える影響を直接的に捕らえることができ、例えば、表面ステップに形成される電気双極子モーメントに起因して表面のポテンシャルが低くなっていることが観察され、そのポテンシャルプロファイルからモーメント量を見積もることができた。また吸着物による仕事関数の変化やその構造による違い、さらには相境界での変化などもその像観察を通じて直接的に理解することができた。
評価
 当初の研究目標としては、低温STMを用いて表面定在波の観察や点接触における電気伝導やそれらの温度依存性、さらには磁性元素による電子状態の影響などを掲げていたが、装置開発に多くの時間を割かれ実験を行うことがほとんどできなかったのが実情である。所属する研究室に移って間もなかった点、研究室全体の研究や学生の研究にもかなりの時間を取られた点など理由に挙げられるが、装置開発の技術的な見通しを多少誤ったことは否定できない。いくつかの研究プロジェクトを行う上での時間配分の仕方や、研究室に所属した形での個人研究の仕方などにも反省すべき点も多かったように思われる。研究をさらに継続して推進していくこともちろんではあるが、これら反省すべき点も経験として生かして今後の研究活動に役立てていきたいと考えている。

領域総括の見解:  表面のステップの双極子の大きさを見積もることが出来たのは興味ある結果で,さらにヘリウム温度の走査トンネル顕微鏡を駆使しての発展に期待したい.
主な論文等:
1. Y.Hasegawa, I.W.Lyo, and Ph.Avouris,"STM study on two-dimensional electronic system localized on surfaces", RITU A44, 99-104(1997)
2. Y.Hasegawa,J.F.Jia,Z.Q.Li, K.Ohno, A.Sakai, Y.Kawazoe, and T.Sakurai,"Surface-states-induced work function anomaly in the Pd/Cu(111) system", Physical Review B, submitted.
3. Jia Jin-Feng, 井上 圭介、長谷川 幸雄、櫻井 利夫“走査トンネル顕微鏡による局所仕事関数の測定” 日本物理学会誌、53巻(第2号),116-119(1998)

(特許、受賞、招待講演等):
受賞: 1件
第5回日本金属学会奨励賞(’95)

This page updated on September 1, 1999

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