お知らせ


平成11年4月8日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話(048)226-5606(総務部広報担当)

山本量子ゆらぎプロジェクトの成果について
電子のハンバリー・ブラウン-トアイス実験
---フェルミ粒子の量子統計性を直接観測することに成功---
(米国科学誌(サイエンス)への掲載)

論文名 Hanbury Brown-Twiss Type Experiment of Electrons
    (電子の量子統計性に関するハンバリー・ブラウンとトアイス型の実験)
 4月9日付Science (vol.284, No.5412)誌に、単一モードの電流を構成する電子の個数分布にばらつきがないという量子力学の基本原理に基づく現象を実証した上記の論文が発表される。この研究成果は、科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業の山本量子ゆらぎプロジェクトで得られた成果である。

研究実施機関

科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業 山本量子ゆらぎプロジェクト
研究員 William Oliver, Jungsang Kim, Robert C. Liu, 山本 喜久
総括責任者 山本喜久(スタンフォード大学教授、NTT基礎研究所主席研究員、
科学技術振興事業団 国際共同研究事業「量子もつれプロジェクト」代表研究者)

概 要

 自然界には、多数の粒子が同一の状態を占有できるボーズ粒子と、1つの状態に粒子1つまでしか存在できないフェルミ粒子と呼ばれる2種類の粒子が存在する。光を構成する光子はボーズ粒子のため、連続した光は光子が集まった部分と疎の部分が生じるが(これをフォトンのバンチング効果と言う) 、この量子力学の基本原理に基づく現象は、1956年にハンバリー・ブラウンとトアイスが実験的に検証していた1)。一方、フェルミ粒子は粒子の重なり合いができないため、連続した電流では電子の粗密が生じない(これを電子のアンチバンチング効果と言う)。この現象に関し、同様の実験を電子に対して行うとボーズ粒子の場合と反対の相関が得られるはずであるとノーベル物理学者パーセルが理論的に予言していたが、その後40年以上にわたって様々な実験的試みが行なわれたものの検証されることはなかった。それは、今日、最も高密度な電子流を真空中に形成できる電界放出形電子銃でも、100万個の状態につき1つ程度しか電子が存在せず、相関を観測するに足るだけの高密度な電子を取り出し検出する技術がなかったためである。
 山本量子ゆらぎプロジェクトでは、GaAs/AlGaAs半導体界面に流れ込んだ電子が膜圧方向に閉じこめられ、面内ではあたかも自由電子のような振る舞いを示し、1μm程度(波としての電子の波長〜50nmの数十倍程度に相当する、1μmは百万分の1m, 1nmは10億分の1m)迄は殆ど散乱が起きないことに着目して、この電子を電子の波長程度の極微小領域を通過させることにより、各状態を必ず電子が1つ占有する(これをフェルミ縮退という)高密度で位相のそろった電子ビームを作り出すことに成功した。さらにこの半導体上にハーフミラーを形成し、電子流を2つの径路に分け、各々の電子流のゆらぎ(電流雑音)の相関を検出できる実験装置を作成し確認したところ、理想的なフェルミ縮退した粒子源の場合の理論値-1.0に十分近い負の相関値-0.8が観測され、パーセルの予言どおり電子のアンチバンチング効果を実証することに世界で初めて成功した。
 山本量子ゆらぎプロジェクトによる量子力学の基本原理に関する実証は、昨年1月のフェルミ粒子の量子干渉の実証(パウリの原理2)の直接観測)に続く2度目の快挙であり、今後、レーザや超伝導のようなボーズ粒子の性質を生かした技術に続き、規則正しく存在するフェルミ粒子の性質を生かした様々な技術の誕生に弾みがつくことが期待される。

電子の量子統計性に関するハンバリー・ブラウンとトアイス型の実験(背景、内容、意義)

創造科学技術推進事業について

本研究の詳細な内容についての問い合わせは、
 科学技術振興事業団 創造科学技術推進事業 山本量子ゆらぎプロジェクト(現、国際共同研究事業「量子もつれプロジェクト」技術参事 町田 進 までお願いします。
 Tel:0422-36-1894, fax:0422-36-1867, E-mail: machida@yqfp.jst.go.jp


This page updated on May 11, 1999

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