インターロイキンー1(IL-1)は,サイトカインと呼ばれる分泌タンパク質の一つである。サイトカインには,一連のインターロイキンやtumore necrosis factor (TNF)などが含まれ,これらは,外界からの刺激に反応して分泌され,いろいろな生体防御のための反応を引き起こす役割をしている。
IL-1は,細菌感染などの異物に反応して,細胞内で産生され分泌される。分泌されたIL-1は,標的細胞のレセプターに結合して,細胞内のIL-1シグナル伝達経路を活性化する。IL-1シグナルは,最終的に核に到達し,他のサイトカイン(さまざまなインターロイキンを含む),炎症に関係するタンパク質(シクロオキシゲナーゼー2など),抗細菌ペプチドなどの遺伝子の転写を上昇させる。それによって産生されたインターロイキンは,免疫細胞の増殖,活性化に関与し,シクロオキシゲナーゼー2は炎症のメディエーターであるプロスタグランジンの産生を誘導する。この結果,免疫系の活性化及び炎症反応が引き起こされる。
インターロイキン遺伝子やシクロオキシゲナーゼー2遺伝子の発現誘導には,2つの転写因子が中心的な役割をしている。ひとつは,AP-1で,もうひとつは,nuclear factor-kB (NF-kB)である。AP-1は,常にDNAに結合しており,リン酸化されることによって活性化される。このリン酸化はMAPキナーゼの仲間であるc-Jun N-terminal kinase (JNK)とp38 によってなされる。MAPキナーゼは,MAP キナーゼキナーゼ(MAPKK)にるリン酸化を受けて活性化され,MAPKKはMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)によるリン酸化を受けて活性化される。このキナーゼカスケードは,MAPキナーゼカスケードと呼ばれ,AP-1の活性化だけでなく,さまざまな細胞内シグナル伝達系で働いている。MAPK,MAPKK, MAPKKKには多くの仲間が存在している。JNKはMAPKKのなかのMKK4とMKK7によってリン酸化されて活性化され,p38はMKK3とMKK6によってリン酸化され活性化される。今までに,試験管内でMKK3,4, 6, 7をリン酸化活性化することができるMAPKKKが,数多く報告されている。しかし現在まで,それらのうちのどのMAPKKKがIL-1シグナル伝達経路で働いているかは明らかではなかった。一方,NF-kBは普段はDNAに結合していない。NF-kBは,通常IkBタンパク質と複合体を作って細胞質に存在し,IkBがリン酸化を引き金として分解されることによって活性化される。近年,2つのグループによってIkBキナーゼ (IKK)が同定された。IKKはIkBと直接結合しリン酸化する。IKKは,最近同定されたキナーゼ,NF-kB inducing kinase (NIK)によってリン酸化され活性化されることが示されている。したがって,NIK→IKKのキナーゼカスケードがNF-kBの活性化に働いていると考えらている。しかし,NIKがどのように活性されるか明らかでなかった。
さて,IL-1は,まず,IL-1レセプター (IL-1R)に結合する。IL-1がそのレセプターに結合すると,まず,少なくとも4つのタンパク質(IL-1R,IL-1R-AcP, MyD88, IRAK)から成る複合体が形成される。その後,IRAKは数分以内にレセプター複合体からはずれ,TRAF6と呼ばれるアダプタータンパク質と結合することが知られていた。しかし現在までに,これらのレセプター周辺の因子と上述のキナーゼカスケードが,どのようにつながっているかは明らかではなかった。
TAK1は我々の研究室で単離されたMAPKKKに属するキナーゼである。これまでに,我々は,TAK1がMAPKKのなかのMKK4,MKK3, MKK6, MKK7をリン酸化し活性化すること,TAK1の結合蛋白質をして単離されたTAB1がTAK1の活性化因子として働くこと,を示していた。今回我々は,IL-1刺激した細胞で,細胞内のTAK1が活性化されることに注目して,TAK1のIL-1シグナル伝達系での役割を解析した。まず,TAK1はIL-1刺激によってTRAF6と結合し,活性化されることを見いだした。次に,TAK1がAP-1とNF-kBの両方を活性化することができること,また,TAK1の活性がIL-1によるこれらの転写因子の活性化に必要であることを見いだした。さらに,TAK1はMAPKKだけでなくNIKをリン酸化し活性化することを示した。したがって,TAK1は,IL-1シグナル伝達系において,TRAF6に結合し活性化され,下流の2つのキナーゼカスケード活性化する働きをしていると考えられる。
IL-1のシグナル伝達経路に非常に類似したシグナル伝達経路は,高等動物だけでなく,少なくとも昆虫のショウジョウバエから存在し,進化上保存されている。ショウジョウバエでは,この類似した伝達経路は,高等動物と同様に生体防御のシグナルを伝達するためにも使われているが,その最も重要な働きは,発生初期における形態形成の際,背側腹側を決定するシグナルを伝えることである。したがって,IL-1シグナル伝達系の解明は,炎症のメカニズムの解明だけでなく,発生初期の形態形成に関わるシグナル伝達の解明にも通じると考えられる。
This page updated on March 20, 1999
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