原子力システム　研究開発事業　成果報告会資料集

１．研究開発の背景とねらい

　本事業では、高レベル廃棄物の中の最も有害な長寿命核種であるアメリシウム(Am)などの超ウラン元素を高度に分離､除去することにより、その処理の問題のブレークスルーを図る。受託者らは以前の研究で、ジチオカーバメート（以下、DTCという）官能基を有し、しかもケロシンなどの有機溶媒に可溶な化学修飾キトサンを開発した。この抽出剤はAm／Eu（ユーロピウム）に対して非常に高い分離係数を有していたが、高レベル放射性廃棄物は少量の超ウラン元素がランタノイドなどの他元素中に混在する系であり､超ウラン元素に対しての選択性の高い固体の吸着剤を用いる処理が最適である。そこで、本研究ではDTCの官能基を多数有する固体の吸着剤と共に上記の抽出剤を多孔質の樹脂に含浸させた吸着剤の開発を行うことを目的とする。

２．研究開発成果

２．１ DTC型キトサンゲルの調製
　図１と図２に示すように、β.キトサンを原料としたDTC型キトサンゲルを調製し、調製したゲルについて、IR分析、TOC分析、イオンクロマトグラフィーを検出器とした自動燃焼装置により硫黄含有量分析を行った結果、DTC官能基がキトサンに導入されたことを確認した。
２．２ DTC型キトサンゲルによる金属吸着・分離機能の評価
　Am/Euの模擬吸着実験として、非架橋型DTC型キトサンゲルのバッチ試験によるCd/Znの吸着実験を行い、図３に示すように、ソフトなCdに対して選択性を示し、両者の分離能を見出した。
　また、架橋DTC型キトサンゲルのバッチ試験によるAm/Euの吸着実験を行った結果、図４に示すようにｐＨ5.8付近でそれぞれAmとEuの吸着率は42%と23%となり、Am選択性が観察された。吸着率は初期量と吸着量の比から算出した。
２．３ DTC型含浸樹脂の調製
　図５に示す合成経路によってDTC型油溶化キトサンを調製し、これを多孔性樹脂に含浸した吸着剤の調製方法の検討を行った。含浸法と含浸用溶媒のスクリーニングを行った結果、含浸樹脂のより優れた調製方法として高分子重合中に抽出剤を含浸させる方法が、また、溶媒のスクリーニング法として、DTC型油溶化キトサンの溶解性やスチレン樹脂の膨潤性、含浸後の除去性を総合的に判断し、表１にまとめたようにジクロロメタンが最も適していることを明らかにした。

３．今後の展望

　DTC官能基の導入率とCd/ZnやAm/Euの分離との相関について検討することにより、Am/Euの分離に最適なDTC型油溶化キトサンゲルが開発できる。また、DTC型含浸樹脂を抽出クロマトシステムに応用することにより、より高効率な分離系が構築できる。