原子力システム研究開発事業
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成果報告会開催

原子力システム 研究開発事業 成果報告会資料集

新規抽出剤・吸着剤によるTRU・FP分離の要素技術開発

(受託者)独立行政法人日本原子力研究開発機構
(研究代表者)木村貴海 アクチノイド分離化学研究グループリーダー
(再委託先)公立大学法人北九州市立大学、国立大学法人東京大学

1.研究開発の背景とねらい

 将来、長期にわたってエネルギー需要に見合う供給を安定に確保するためには、安全確保を大前提としてエネルギー安全保障や地球温暖化防止の視点を踏まえつつ、原子力発電を活用していくことが必要である。このため、現在の軽水炉燃料サイクルを確立させるとともに、将来の高速増殖炉燃料サイクル及びそれが確立するまでの移行期においては様々な不確定要因に柔軟に対応できる燃料サイクル技術の開発が重要である。我が国おいては核燃料資源を合理的に達成できる限りにおいて有効に利用することを目指して、安全性、核不拡散性、環境適合性を確保するとともに、経済性にも留意しつつ、核燃料を再処理し、回収されるPu、U等を有効利用することが基本方針となっている。本事業では、とくに環境適合性に着目して、高速炉燃料サイクル及びそれが確立するまでの過渡期における様々な革新的原子炉体系にも柔軟に対応できる再処理プロセスの要素技術として、放射性廃棄物の減容と環境負担低減のために必要と考えられる分離技術の開発を行う。具体的には、(1) 超ウラン元素(TRU)分離要素技術開発として、受託者らが開発を進めてきた抽出剤テトラオクチルジグリコールアミドをさらに高性能化し、全てのTRUを分離回収する。さらに、マイナーアクチノイド(MA)の処分法の1つである核変換に対応して、独自に開発してきた抽出剤であるピリジンアミドなどの配位子を含有する新規吸着剤によりMAを分離精製する。また、新規抽出剤の開発を支援するために計算化学的手法を改良する。(2)核分裂生成物(FP)分離要素技術開発として、近年開発されたCs・Srに対し高い選択性を有するカリックスクラウン誘導体やクラウンエーテルを含有する新規シリカ担持型吸着剤、及び新規Fe系化合物吸着剤を用いるカラム分離法により、Cs、Sr、及びMoを効率よく分離回収する。最後に、(3)開発した各要素技術の性能を評価した後、それらで構成した分離システムを提示し、様々な再処理システムへの適合性、有用性等を総合評価する。ここでは、これまでに行った上記(1)及び(2)の成果を述べる。

2.研究開発成果

(1)TRU分離要素技術開発
①全TRU分離技術開発[1]
 新規抽出剤開発として、ジグリコールアミド(DGA) の側鎖のアルキル基(図1のR1, R2)を系統的に変えて 12種類のDGAを合成し、融点、沸点及びn-ドデカン 図1 ジグリコールアミド(DGA) への溶解性を測定評価した。その結果、アルキル基 の炭素数が8以上のテトラオクチルDGA(TODGA)、テトラデシルDGA(TDDGA)、テトラドデシルDGA(TDdDGA)、テトラ-2-エチルヘキシルDGA(TEHDGA)が抽出剤候補となることを明らかにした。
 合成した化合物のTRUの抽出特性として、0.1 M及び3 M硝酸の条件でAm(III), Pu(IV)及びU(Y)の抽出分配比を測定し、TODGA、TDDGA、及びTDdDGAについてはそれらの分配比が非常に高いことを確認した。さらに、当初の目標であるDGAの抽出容量の向上についてNd(III)を用いて調べた結果、TDdDGAやTODGAにモノアミドを添加した系ではTODGA単独よりも約5倍の抽出容量を持ち、第3相の生成も見られないことから大幅な改善がみられた。
 上記の結果から0.1 M TODGA、0.1 M TDdDGA及び0.1 M TODGA -1 M DHOA(ジヘキシルオクタアミド)の3種類の抽出系を選定し、ミキサセトラを用いる多段抽出試験を開始した。実際の抽出試験に先立ち、TRU及びFPの抽出特性に基づいて全TRU分離スキームをシミュレーションし、ミキサセトラによる試験条件を決定した。最初の試験として、0.1 M TODGA/ドデカンを抽出溶媒に、FPとしてPd(II), Sr(II), Zr(IV)、及び3価TRUとランタノイド(Ln)の代表としてNd(III)を用いて、全TRU抽出工程4段、FP洗浄工程6段、及び全TRU逆抽出工程6段で試験した結果、Pd(II)の分離は難しかったが、 Sr(II)をNd(III)から分離することができた。Zr(IV)は、さらに改善が必要であるが、約8割までは分離できた。TODGAの結果を基に、他の抽出系についても多段抽出試験を行い、全TRUとFPの分離条件の最適化を実施する。

②MA/Ln分離技術開発[2]
 抽出クロマトグラフ用吸着剤に用いる新規抽出剤開発として、ピリジンアミド(PDA)のピリジン環と二つのカルボニル酸素からなる主骨格をそのままに、側鎖(図2のR1はフェニル基で固定、R2を変化)に長さの異なる炭素鎖(メチル基、ブチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル 図2 ピリジンアミド(PDA) 基、イソプロピル基)を導入した6種類のPDAを合成 し、XAD樹脂(担体)に含浸させることにより吸着剤を調製した。組成・溶解性の測定評価の結果、XAD4樹脂へのPDAの含浸量はほぼ1 mM/g(XAD4)であり、PDAに結合するアルキル鎖が長いほど(炭素鎖が8以上)疎水性が向上し、溶出するPDAを30 ppm程度に抑制することができた。
 合成した吸着剤によるAm(III)とEu(III)の分離性能を分配係数Kdの測定により評価した結果、PDAのアルキル鎖の炭素数が10より大きいものでは、分離性能の低下が見られたものの、炭素数8、10のも 図3 オクチルPDA含浸吸着剤による のでは、分離係数SF(=Kd(Am)/ Kd(Eu))として7か Eu(III)とAm(III)のクロマトグラム ら8程度を示し、Am(III)の分離に充分な性能を有することを確認した。そこで、オクチルPDA含浸吸着 剤を用いて、カラム分離試験を開始した。コールド 予備試験として、Am(III)のKdとほぼ同等のDy(III)を用いてEu(III)とのカラム長及び分離条件の確認を行い、上記バッチ法で得た溶液条件に加え、概ね必要なカラム長の情報を取得した。この結果を基にAm(III)を用いて分離試験を行い(図3)、カラム長および溶離条件のさらに精密な最適化を進めている。
③計算化学的評価
 TRU分離のための新規抽出剤開発に計算化学的手法を応用するため、国内外の計算化学的研究を総合的に調査し、現状と問題点を明らかにした。その結果、精密な分子軌道法及び実験的に得られたTRU錯体の構造情報をもとに分子力場パラメータを決定し、分子動力学法による溶媒中での抽出錯体の安定性予測に基づいて、新規抽出剤開発に役立てることとした。
 抽出剤構造最適化では、各種DGA系抽出剤及び新規ジアミド系抽出剤のドナー酸素原子上の電荷密度をCACheに含まれる半経験的分子軌道法(MNDO-AM1法)により求め、抽出挙動との相関を調べた。その結果、マロンアミド系抽出剤と比較してDGA系抽出剤のカルボニル酸素の電荷密度が大きく、配位能力が高くなることを明らかにした。
 TRU錯体の分子力場(MM)用のパラメータ構築と精密化では、はじめにDGA及びPDA系抽出剤の量子化学計算を行い、Direct Force Field法により結合伸縮、変角、ねじれ角、及び非結合性相互作用パラメータなどを構築し、抽出剤の分子力場パラメータを決定した。
 TRU−抽出剤(ドナー酸素原子)間の結合に関しては、結晶構造データベースに収蔵されているTRUのアセチルアセトン錯体の構造データに基づいて量子化学計算を行い、Am錯体に関して分子力場構築用のデータの取得に成功した。得られたデータをもとに、Am−抽出剤間の結合伸縮のパラメータを構築した。加えて、MOMEC法を用いて、Am、Np−抽出剤間のパラメータ取得に成功した。分子力場パラメータを分子力学計算に導入して分子力学計算の評価を行った結果、得られた立体エネルギー値と抽出能力との間に相関関係を見出した。

(2)FP分離要素技術開発
①Cs・Sr分離技術開発
 大環状有機化合物を用いて、Cs分離用にはCalix-crown R14をモノアミド化合物とともに多孔性シリカ/ポリマー複合担体(SiO2-P)に担持した吸着剤(C-1) 、モノアミドの代わりにドデカノールやオクタノールを使用した吸着剤(C-6, C-7)を調製した。Sr分離用には、DtBuCH18C6抽出剤をオクタノールとともにSiO2-Pに担持した吸着剤(D-1)、ドデカノールを使用した吸着剤(D-2)を調製した。さらに、DtBuCH18C6の代わりにアルキル基の構造をジメチルブチル基に変更したDtHxCH18C6とオクタノールを担持した吸着剤も調製した(D(H)-1)。上記吸着剤について硝酸中での溶解挙動を調べ、Cs吸着剤ではCalix-crown R14とドデカノールの組み合わせた吸着剤(C-6)が、溶解性も低く耐溶出性に優れていた。また、Sr吸着剤では、DtBuCH18C6とドデ 図5 di(tert-butylcyclohexano)- カノールの組み合わせた吸着剤(D-2)が優れていた。

 Cs分離用吸着剤(C-1)はCsに対し高い選択性を示すとともにRbとUが吸着し、Sr分離用吸着剤(D-1)はSrに対し高い選択性を示すとともにBaとUが吸着した。また、TRU及びTcの吸着試験を実施した結果、どちらの吸着剤にも硝酸溶液中でPuが強く吸着した。一方、Np、Am及びTcは吸着しなかった。Cs吸着剤では、改質剤をモノアミドからアルコール系に変更したC-6やC-7吸着剤が、当初の予想通りCs吸着能及びCs選択性に優れる結果となった。Sr吸着剤では、Sr吸着能ではD-1やD-2吸着剤が優れていたが、Sr選択性では抽出剤のアルキル基部分の構造を替えたDtHxCH18C6の吸着剤(D(H)-1)が優れていた。低硝酸濃度(1または2 M以下)の場合で、Cs吸着剤のC-6、C-7、Sr吸着剤のD(H)-1についてPu吸着の抑制が認められた。また、Cs吸着剤の改質剤の溶解を抑制するために、改質剤をヘキサデカノールにした吸着剤のCsに対する吸着性は、C-6等とほぼ同等であった。一方、Sr吸着剤においては、D(H)-1吸着剤の耐溶解性を改良するために改質剤をドデカノールに変更したが、吸着剤のSrに対するKdは、D(H)-1吸着剤とほぼ同等であった。今後、吸着剤組成を確定するとともに、カラム分離試験により吸着・分離特性を把握し、条件の最適化を行う。
②Mo分離技術開発
 Mo分離用吸着剤開発として、新規Fe・Pb系複合酸化物吸着剤及びFe系水酸化物吸着剤を水熱合成した。合成した吸着剤の組成測定及びマイクロスコープによるミクロ構造観察を行うとともに、熱重量/示差熱分析、及びX線回折により結晶構造の変化を調べ、それらの形状・組成・構造を測定評価し、吸着剤の焼結温度と粒径、結晶構造などの関係を明らかにした。Fe・Pb系吸着剤の溶解性実験を硝酸溶液で行い、500℃で焼結した場合にPbとFeの溶出量がそれぞれ27.49mg/g及び14.74mg/gと最も少ないことを明らかにした。さらに、Fe・Pb系複合酸化物吸着剤及びFe系水酸化物吸着剤の溶解性実験を硝酸溶液で行い、Fe・Pb系複合酸化物吸着剤ではPbの量を減らすことで溶出を抑制することができた。Fe系水酸化物吸着剤では焼成温度を400℃以上とすることで、硝酸濃度12 M付近においても溶解量を1-3 %程度にまで低減できた。
 新規Fe・Pb系複合酸化物吸着剤は、硝酸濃度3 M付近でCs、Uがわずかに吸着するもののMoに対する高い選択性を有することを確認した。さらに、合成した吸着剤のMo吸着の濃度依存性(吸着等温線)や硝酸濃度依存性を調べた結果、Fe系水酸化物吸着剤上でのMo吸着量は硝酸濃度の増加とともに低下したものの、3 M硝酸中でのMoに対するKdは、Fe・Pb系複合酸化物吸着剤上でのKdより高く、その時の平衡吸着量は約0.1 mmol/gとなった。

3.今後の展望

 新規抽出剤及び吸着剤の開発について、当初予定したように合成・基礎特性試験、分離基礎試験を通して得られた基本性能・分離性能に基づいて、候補抽出剤・吸着剤を絞り込むことができた。このように本事業の初めの重要な段階がほぼ達成できたため、それらの抽出剤・吸着剤の性能を確認するとともに、それらを用いた多段抽出試験、カラム分離試験など、実用化に向けた試験を本格的に開始した。また、各要素技術の成果を基に最適なTRU・FP分離システムを提案するための総合評価も開始した。今後の各種試験研究を通して、実用性の高い要素技術で構成した分離システムの提示が可能であると考えている。

4.参考文献

[1] Chemical separation of actinides from high level radioactive liquid waste using diglycolamide(DGA) compounds, Y. Sasaki, Y. Kitatsuji, Y. Sugo, T. Asakura, T. Kimura, Proc. Global 2007, Boise, Idaho, Sept.9-13, 2007, p.1117-1120.
[2] Separation of actinides(III) from lanthanides(III) by extraction chromatography using new N,N’-dialkyl-N,N’-diphenylpyridine-2,6-dicarboxyamides, M. Ariska, M. Watanabe, T. Kimura, Proc. Global 2007, Boise, Idaho, Sept.9-13, 2007, p.111-113.
Japan Science and Technology Agency
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