メタゲノムオーソログ遺伝子統合解析システムの開発

代表研究者: 黒川 顕 (奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 助教授)

①目的

海洋や河川、土壌や大気中、さらにはヒトや動物の腸内、皮膚、口腔内など地球上のあらゆる環境には、その環境に特化した多様な細菌が群集を形成し生存しています。これら環境の根幹を形成する細菌群の総体としての生命システムを明らかにするために、細菌群をまるごとゲノム解析する「メタゲノム解析」が実現化しつつあります。しかし、メタゲノム解析では細菌群をまるごとゲノム解析するために、得られるゲノムデータは膨大なものとなります。本研究では、この膨大な情報から有益な知識を効率よく発見するためのデータベースの構築ならびに新規バイオインフォマティクス技術の開発を実施しています。

②研究概要

本研究では、メタゲノム遺伝子を比較し、環境の違いによる生命システムの相違を効率よく発見するために、以下に挙げる主に4つのバイオインフォマティクス技術を開発しています。①メタゲノム配列からの遺伝子予測、②メタゲノム遺伝子クラスタリング、③メタゲノムオーソログ遺伝子データベースの構築、④比較メタゲノムにおけるオーソログクラスターの視覚化。これらを統合した解析システムは、既存の細菌オーソログ遺伝子データベースとは大きく異なり、メタゲノム解析で得られた自然界の細菌の遺伝子を基盤としたクラスタリングという新たなコンセプトに基づくデータベースシステムです。この巨大な遺伝子データベースをインデックスとして用いることで初めて、環境中の生命システムにおける体系的な理解が可能になると期待できます。

③研究概要図

黒川顕メタゲノムオーソログ遺伝子統合解析システムの開発

④成果

本研究で開発した基盤技術を、ヒト腸内細菌叢のメタゲノム解析に応用し論文を発表しました。ヒト腸内細菌叢はヒトと密接に関わりながら複雑な共同体を形成しています。それらヒト腸内細菌叢の特徴を特定するために、乳児から大人まで様々な年令の13人の健常人を対象として大規模な比較メタゲノム解析を実施しました。その結果、乳児における腸内細菌叢は単純で、かつ個人間における変異が極めて大きいものでした。反対に幼児を含む大人における腸内細菌叢はより複雑であるものの、年齢や性別に関わらず機能的に一様でした。13人もの腸内細菌叢サンプルを解析することで、健康なヒトの腸内細菌叢の状態を大まかに定義することができました。これらの成果は我々の開発しているウェブサイト[外部リンク]から参照できます。