予測技術を用いた生命システムの同定手法の開発

代表研究者: 石井 信 (奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 教授)

①目的

生物を形作る様々な種類の分子(タンパク質等)は、有機的に役割分担をすることで複雑な機能を発揮することができます。では、各機能においてどのような役割分担が存在するのでしょうか。どの分子が、どのタイミングで、どの分子と、どのように役割を果すのかを知るためには、実験データが必要です。しかし、実験の難しさゆえに、データは非常に限られています。本研究では、注目する分子のデータから機能に関する情報の抽出技術を開発し、分子データから機能の予測を行います。予測の精度が良ければ機能の役割分担はほぼ解明されたことになり、精度が良くなければどの程度の役割分担であったか知ることができます。これにより、生物学実験の方針が立て易くなります。

②研究概要

主に2つの生物現象を扱います。1つ目は、神経細胞の形が極端に偏りを持つようになる現象(極性形成)です。1本の神経突起だけが長く伸び、将来的に軸索という重要な突起になります。Shootin1というタンパク質が他の分子と共にその仕事をしているらしく、どれほどの責任を持っているかを予測技術で見積ります。もうひとつの現象は、卵が細胞分裂して大きくなる過程で、細胞の塊が等間隔にできる現象(体節形成)です。Hes7というタンパク質がメトロノームのように時間を刻むことできれいな体節を作る仕事をしているらしく、どれほどの役割を持っているかを予測技術で見積ります。

③研究概要図

石井信予測技術を用いた生命システムの同定手法の開発

④成果

神経の極性形成では、Shootin1分子が濃くなった時に神経突起が伸びることがよく観察されます。これまでの研究で、突起が縮む傾向、Shootin1の濃さが変化する傾向を解析し、神経の突起伸長を表現する数学モデルが出来上がりました。現在は、このモデルを用いてコンピュータ上で突起伸長の予測を行っています。体節形成では、Hes7分子が時間を作ることと、体節をまばらになることなく形成することをつなげる数学モデルが出来上がりました。現在は、実験データと数学モデルとを融合させる方法を情報科学的に研究しています。