マウスを用いた脳機能表現型データベースの開発

代表研究者: 宮川 剛 (京都大学大学院医学研究科 助教授)

①目的

マウスの遺伝子の99%はヒトにもホモログ(対応する遺伝子)があり、さらに遺伝子ターゲティングなどの技術が応用することで、遺伝子を自由自在に操作することが出来ます。そしてマウスには心理学的な解析をはじめとして、個体レベルでの多彩な解析技術が適用できので、マウスはヒト脳の統合的理解のためのモデル動物として最適であると考えられます。 ゲノムシークエンスが完了し、現在はポストゲノムシークエンス時代であると言われますが、遺伝子の個体レベルでの機能はまだほとんど分かっていません。また、全ての遺伝子の80%以上は脳で発現していると言われており、脳で発現する遺伝子の機能を調べるためにはその最終アウトプットである行動を調べることが必要だと考えられます。興味深いことに脳で発現する遺伝子の遺伝子改変マウスはそのほとんどで何らかの行動異常が見られ、脳で発現する遺伝子はその大部分が行動の特性に何らかの影響を与えるということを意味しているかも知れません。 本研究開発では、マウスの行動解析データ取得手法の標準化とデータベースの開発・整備・公開を行うことで、表現型についての情報をインフォマティクスの方法を用いて解析・利用することを可能にすることを目的としています。

②研究概要

これまで各種の遺伝子改変マウスに対して、幅広い領域をカバーした行動テストバッテリーを行い、各種遺伝子の新規機能を見出してきました。テストバッテリーには知覚・感覚、運動機能、情動性などから記憶学習や注意能力など高次認知機能まで各種のテストが含まれています。また、これらのテストの9割以上は自動化されており、大規模かつ客観的な測定が行えるようにデザインされています。すでに代表研究者らは国内外60研究室との共同研究を行っており、事実上、この分野の国内最大の拠点となっています。得られた行動表現型の情報と改変された遺伝子の既知の機能からその脳内での機能発現についての推測をして、脳研究の各種研究領域の専門家との共同研究を促すことができます。本研究開発では、この研究戦略をより系統的・効率的に推進し、研究システムの整備と基礎データの取得を行います。

③研究概要図

宮川剛マウスを用いた脳機能表現型データベースの開発1
脳で発現する遺伝子の機能を調べるためにはその最終アウトプットである行動を調べることが必要だと考えられます。そのために、各種の遺伝子改変マウスに対して幅広い領域をカバーした行動テストバッテリーによって解析しています。テストバッテリーには、知覚・感覚、運動機能、情動性などから記憶学習や注意能力など高次認知機能まで各種のテストが含まれています。得られた行動表現型のデータをデータベース化し、インフォマティクスの方法を用いての解析・利用が出来るようにします。
宮川剛マウスを用いた脳機能表現型データベースの開発2
これは45系統の遺伝子改変マウスに対して網羅的行動テストバッテリーを行った結果を一覧にまとめたものです。縦の列が遺伝子改変マウスの系統を表し、各行は行動の指標のカテゴリーを表しています。野生型 v.s. ミュータントで、赤色は増加、緑色は低下を示しています。脳で発現する遺伝子の遺伝子改変マウスはそのほとんどで何らかの行動異常が見られており、脳で発現する遺伝子はその大部分が行動の特性に何らかの影響を与えているのではないかと考えられます。


④成果

これまでに共同研究を広く受け入れることにより、これまでに70系統、約4900匹の遺伝子改変マウスについて網羅的行動テストバッテリーで表現型データの取得を行ってきました。各マウスについて得られた数値データは改変された遺伝子の情報や遺伝的背景などの基礎的な情報とともに FileMaker Proのリレーショナルデータベースとして一元的に管理されており、現在、19の行動テストについて、合計164の指標がデータとして登録されています。さらに、行動解析の結果が論文として出版されたものについては代表者らが構築・運営するデータベースで全ての生データを公開していく予定です。現在は試験運用中であり、C57BL6の亜系統間の比較データと既に論文として出版された6つの系統の合計357匹分のデータを試験的に限定公開しています。また、実験に用いるプロトコルをドキュメントや映像として順次公開することで他の研究施設でも同様のプロトコルが採用できるようにし、プロトコルの標準化を推進していきます。