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バイオインフォマティクス推進事業 平成20年度終了研究開発課題 事後評価報告書
バイオインフォマティクス推進事業 平成20年度終了研究開発課題 事後評価報告書
バイオインフォマティクス推進センター 統括
勝木元也
1.研究開発の概要
本事業は、情報科学と生物科学とを融合したアプローチにより多様な生物情報から生物現象の原理や法則を発見し、体系化することを目指す研究開発課題を募集し、採択された課題の研究開発を行うことを目的としている。得られた成果は公開し、バイオインフォマティクスの発展および新しい情報生物学創造の切っ掛けとして機能し、新たな生物科学が樹立されるよう支援を行っている。
平成17年度は、生物の構造、機能、諸要素の関係などの生物学的データの生産者と情報科学的解析手法の提案者が協力し、新しい生物学上の発見や情報学の新たな創造へとつながるような、データ処理、データ表現を創出する研究開発課題の募集を行った。募集の結果、応募件数が113件、面接選考が15件、採択数が6件となった。今回この6件の課題が当初予定の3年間の研究開発期間を終了したことにともない、事後評価を行ったのでここに報告する。
2.研究開発成果の概要
内山郁夫博士のチームは、大規模な比較ゲノム解析に向けたワークベンチを開発した。オーソログ分類結果全体を効果的に表示し、利用者自身の持つゲノムを取り込んだ解析、内群・外群の概念導入による興味ある生物種を中心とした比較解析、近縁ゲノム間の遺伝子の並び順の保存性に基づくコア構造アライメントの解析を可能とした。
太田元規博士のチームは、確率的アライメント法やプロファイル比較法を組み合わせて、アミノ酸配列から構造ドメインと天然変性領域を予測する構造予測パイプラインを構築し、従来よりも高い精度で立体構造予測を可能とした。また、ヒトゲノム由来の配列に適用し、その結果を格納する、立体構造変化や基質結合と反応を視覚的に理解できるデータベースを構築した。
川戸佳博士のチームは、神経の画像から樹状突起やスパインの位置及び形態を自動的に検出できる神経シナプス自動解析プログラムを開発した。海馬スライスを解析し、ストレスホルモンや女性ホルモンによりスパイン密度が急性的に増加すること、またスパインの変化は多くのキナーゼが組み合わさった複雑な経路で駆動していること等を明らかにした。
塩田浩平博士のチームは、京都大学のヒト胚標本コレクションのうち約1200例の正常胚について撮像を行い、ヒトの形態形成過程の三次元画像データベースを構築した。MR顕微鏡の開発やEFICイメージングの導入により、解像度の高い画像データを取得した。また、きわめて実際に近いヒト胚の3次元モデルを作製した。
白井剛博士のチームは、超分子複合体モデリングに必要なツールを開発した。モデリングの妥当性の検証のために、古細菌3R複合体の機能解析および構造解析の実験を行い、PCNA(DNAクランプ)複合体の解析に成功した。これらの実験結果と作成されたモデルとを比較し、モデリングシステムが生み出す超分子複合体モデルが有効であることを示した。
宮川剛博士のチームは、90系統以上の遺伝子改変マウスについて、網羅的行動テストバッテリーを用いてデータの収集を行い、マウスの脳機能表現型データベースを構築した。脳で発現している遺伝子の遺伝子改変マウスのほとんどで何らかの行動異常が見られており、疾患に関わる遺伝子を発見した。
3.各課題の事後評価結果
- (1)「大規模な比較ゲノム研究を展開するためのワークベンチの構築」 別添1
- 代表研究者:内山 郁夫 自然科学研究機構基礎生物学研究所 助教
- (2)「タンパク質の構造・機能予測法の開発とヒトゲノム配列への適用」 別添2
- 代表研究者:太田 元規 名古屋大学大学院情報科学研究科 教授
- (3)「脳スライス中で可視化した神経シナプスの自動解析」 別添3
- 代表研究者:川戸 佳 東京大学大学院総合文化研究科 教授
- (4)「ヒト胚の形態発生に関する三次元データベース」 別添4
- 代表研究者:塩田 浩平 京都大学大学院医学研究科 教授
- (5)「実践による超分子複合体モデリングシステムの開発」 別添5
- 代表研究者:白井 剛 長浜バイオ大学バイオサイエンス学部 教授
- (6)「マウスを用いた脳機能表現型データベースの開発」 別添6
- 代表研究者:宮川 剛 京都大学大学院医学研究科先端技術センター グループリーダー
4.総評
3年間という研究開発期間において、神経、脳、形態、ゲノム、タンパク質等の生物情報から、生命現象の機能や原理の解明に向けた新しい試みがなされた。個別の生物現象に取り組む中で開発されたインフォマティクス技術は、限定された対象のみならず、他の領域にも適用・応用可能なものと評価できる。また得られた成果の多くは、広く利用できるように公開されている。
事後評価対象の研究開発課題の8割以上において、ライフサイエンス分野の情報基盤の整備やバイオインフォマティクス研究の進展に資する十分な成果が得られた。
(参考)
(1)公開されている成果プログラムおよびデータベース等
- (代表研究者:内山郁夫)
- ・MBGD (http://mbgd.genome.ad.jp/)
利用者が生物種を選んでオーソログ解析を行える機能を持った微生物比較ゲノムデータベース。 - ・DomClust (http://mbgd.genome.ad.jp/domclust/)
ゲノム中の遺伝子間の総当たりのホモロジー検索結果を用いて、独自に開発された階層的クラスタリングアルゴリズムによって、ドメイン単位のオーソロググループを作成するプログラム。 - ・MyMBGD (http://mbgd.genome.ad.jp/MyMBGD/)
公開ゲノムデータに利用者のゲノムを加えた上でオーソログテーブルを作成し、MBGDのインターフェイスを通して比較解析を行えるようにするシステム。 - ・CGAT (http://mbgd.genome.ad.jp/CGAT/)
近縁ゲノム間のアライメントに基づく比較ゲノム解析ツール。アライメントの計算やデータの管理を行うサーバと、ドットプロットとアライメント表示とを組み合わせたビューアとから構成され、特にゲノム上の繰り返し構造とゲノム多型との関連を詳細に調べるのに適している。スタンドアローンのプログラムとして配布しているほか、ビューアはMBGDの機能の一部としても利用可能。 - ・CoreAligner (http://mbgd.genome.ad.jp/CoreAligner/)
類縁ゲノム間の遺伝子の並び順の保存性に基づいてコア構造を構築するプログラム。MBGDのクラスタリング結果とMBGDからダウンロードしたゲノムデータを入力として実行する。 - ・RECOG (http://mbgd.genome.ad.jp/RECOG/)
MBGDを発展させて作成された比較ゲノムワークベンチ。クライアント・サーバ型ソフトウェアとして動作する。基本的な使い方はMBGDと同様に、生物種を選択してオーソログクラスタリングを実行して、その結果を基にして様々な比較解析を行う、というものであるが、系統パターンマップの全体像の表示、内群・外群を指定したオーソログクラスタリング(DomClust)の実行と表示、コア構造プログラム(CoreAligner)の実行と表示などの解析機能を含んでいる。ゲ公開ノムデータに利用者のゲノムを加えた上でオーソログテーブルを作成し、MBGDのインターフェイスを通して比較解析を行えるようにするシステム。 - (代表研究者:太田元規)
- ・EzCatDB (http://mbs.cbrc.jp/EzCatDB/)
酵素反応の触媒機構を階層的に分類する新しい枠組み(RLCP)を導入し、立体構造が解かれている酵素を分類したデータベース。現在、706のエントリーが登録され、欧州バイオインフォマティクス研究所(EBI)、ケンブリッジ大学の酵素関連データベース(Catalytic Site Atlas,MACiE)、大阪大学蛋白質研究所のPDBjと相互リンクを行っている。 - ・POODLE (Prediction Of Order and Disorder by machine Learning) (http://mbs.cbrc.jp/poodle/)
配列的特徴の異なる3種類(配列全体、30残基程度、数残基程度)の長さのディスオーダーについて、各々に最適な機械学習法を用いて予測を行うプログラム。世界的に権威のあるCASPコンテストで高い評価を得ている。 - ・classPPI (http://pre-s.protein.osaka-u.ac.jp/~classppi)
PDBに登録されているホモタンパク質の相互作用部位のデータベース。SCOPでの分類を利用し、冗長性を除いた737個のエントリーが登録されている。相補性の解析結果を閲覧することができる。 - ・piSite (http://pisite.hgc.jp)
タンパク質立体構造データベースPDBを利用して、タンパク質複合体の相互作用部位を網羅的に集めたデータベース。相互作用部位を集める際に、異なる複数のタンパク質と相互作用出来るタンパク質の相互作用部位を同時に考慮している点が特徴。また副産物として、多くの異なるタンパク質と一時的な相互作用することが出来るSociable proteinのリストも提供している。110,325タンパク質鎖が登録されている。 - ・PreBI (http://pre-s.protein.osaka-u.ac.jp/~prebi)
タンパク質複合体の立体構造をX線結晶構造解析で決定した際には、タンパク質間相互作用面として、結晶学的な相互作用面と生物学的な相互作用面が存在する。これまでその決定は、個別に総合的な判断により決定されてきたが、PreBIでは相互作用面の物理化学的な性質の相補性を利用して、生物学的な相互作用面を手助けするWebサーバ。 - (代表研究者:塩田浩平)
- ・ヒト胚3次元データベース (http://mrlab.frsc.tsukuba.ac.jp/human_embryos/)
予備的なデータベースの内容を公開している。 - (代表研究者:白井剛)
- ・SIRD (http://sird.nagahama-i-bio.ac.jp/sird/)
自動でPDBの構造と相互作用の情報を分類するプログラム群SIRDp (processor)とユーザーインタフェースとウェブサイトを兼ねるSIRDi (interface)からなる。SIRDiはHP形式で利用できるほか、ユーザーがローカルにGUIとしても用いる。本研究開発のモデリングツールはSIRDデータベースをモデリングテンプレートとして利用する。最新版080909は309,286エントリーの情報を含む。 - ・BIOMOL (http://sird.nagahama-i-bio.ac.jp/sird/の 3. SIRD modeling - 3. 1: Make quaternary compex よりWebツールとして利用可能)
BIOMOLはPDB形式の結晶構造(非対称単位の原子座標が含まれる)を元に、生理学的な複合体構造(4次構造)を推定するツール。 BIOMOLはデフォルト内部パラメータで自動推定を行えるほか、ユーザー指定のパラメータ/モードで4次構造推定ができる。 - ・EXT (http://sird.nagahama-i-bio.ac.jp/sird/の 3. SIRD modeling - 3. 1: Make complexよりWebツールとして利用可能)
SIRDを利用し、クエリ構造と類似した既知タンパク質と相互作用する分子をクエリ構造に重ね合わせて示すプログラム。 モデリングのテンプレートを提供する。相互作用する分子としてi)タンパク質ドメイン、 ii)非タンパク質分子(DNA/RNA/糖鎖などのポリマー、低分子化合物) 、iii)両方を選択可能である。類似した位置に存在する類似した分子のクラスタリングにより代表モデルを選ぶ機能がある。 - ・CMP (http://sird.nagahama-i-bio.ac.jp/sird/の 3. SIRD modeling - 3. 2: Assemble complexよりWebツールとして利用可能) PDBフォーマットの分子座標ファイルを2つ与えると、重ね合わせ可能な分子(タンパク質、ペプチド、DNA、RNA、糖鎖などのポリマー、および低分子リガンドを含む)を検索し、それらを重ね合わせることによって複合体分子モデルを構築する。
- (代表研究者:宮川剛)
- ・Mouse Phenotype Database (https://behav.hmro.med.kyoto-u.ac.jp/)
網羅的行動テストバッテリーによる遺伝子改変マウスの解析データを閲覧検索することが出来る。データは改変した遺伝子についての情報と、全ての個体について生データが登録されており、マウスの系統は合計20系統、匹数にして1539匹分のデータが登録されている。(平成20年10月24日現在)
(2)外部発表件数*
国内 | 国外 | 計 | |
論文** | 51 | 154 | 205 |
招待・口頭講演 | 98 | 21 | 119 |
ポスター発表 | 184 | 50 | 234 |
合計 | 333 | 225 | 558 |
*:件数は、各代表研究者が研究開発終了報告書に記したデータを採用した。
**:論文は原著論文のみで印刷中のものは含むが、投稿中のものは含まない。
(3)特許
- 国内3件
- ・発明者:川戸佳、釣木沢朋和、田辺伸聡「化学物質のステロイドホルモン様作用を形態学的手法を用いて検出する方法」(特願2005-102311)
- ・発明者:川戸佳、三橋賢司「線状の形態を有する細胞等を解析する方法及び神経細胞解析方法ならびにそれら方法を実行する装置及びプログラム」(特願2005-359828)
- ・発明者:大竹陽介、巨瀬勝美、拝師智之「磁気共鳴撮像装置および撮像方法」(特開2007-209658)
- 国際1件
- ・発明者:川戸佳、三橋賢司「線状の形態を有する細胞等を解析する方法及び神経細胞解析方法ならびにそれら方法を実行する装置及びプログラム」(PCT/JP2006/322537)