「次世代情報社会の実現」領域イベント
「10年後の未来に向けた情報技術への期待
~次世代のトリックスターを探して~」 報告

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開催概要

■ 出展日時:2022年4月25日(月) 14:00~16:00

■ 出展形式:オンライン開催(ウェビナーによるライブ発信)

■ 主催者 :未来創造研究開発推進部

報告

 未来創造研究開発推進部は、2022年4月25日、「次世代情報社会の実現」領域のウェビナーによる公開イベント「10年後の未来に向けた情報技術への期待~次世代のトリックスターを探して~」を開催し、約300名の参加があった。

 現在、人工知能技術やゲノム編集技術の急激な進展により、私たちの生活様式、産業構造に大きな変革期が到来しており、10年後には全く想像もつかない新しい世界が待ち受けている可能性がある。そこで本イベントでは、情報技術により新しい道を切り拓いてきた登壇者らにその思いを語ってもらうとともに、今後のありうる未来について議論した。

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左上から、後藤氏、落合氏、前田運営統括、高橋氏

1. オープニング

開会にあたり、前田 英作 東京電機大学 教授(「次世代情報社会の実現」領域 運営統括)よりイベントの趣旨説明があった。研究者・技術者は将来の可能性を見据えた「ありうる未来」に向けて研究開発に取り組むが、近年急発展したゲノム編集や深層学習を例に挙げ、想定以上に技術の変化やその社会実装が進んでいる。それらの現状を踏まえ、現在予測できない部分にも未来の可能性があることを正しく認識し、幅広い意見をもとに「ありうる未来」を描く必要性が言及された。

2. 話題提供

①高橋 祥子 株式会社ジーンクエスト 代表取締役

ご自身の経験から、生命科学分野におけるデータ収集・活用による研究推進と社会実装を両軸としたサイクルが紹介された。COVID-19を例に、10年毎に全く異なる世界を生きている前提に立つことや、データを活用して未来を描き、ミッション・オリエンテッド型で課題を解決することの重要性について言及された。

②落合 陽一 筑波大学 デジタルネイチャー開発研究センター長/准教授

科学と自然という概念を計算機世界へ拡張した、計算機科学と計算機自然(デジタルネイチャー)というアイデアが紹介された。計算機自然の中では、自然には存在しない材料を作りシミュレーションすることが可能であり、さらには計算機自然の物化、人間と計算機自然との新しい関係の可能性などが示された。計算機自然を通じて、科学技術の周辺領域まで含めた、新しい総合知や科学技術のあり方に今後の課題があることが議論された。

③後藤 真孝 産業技術総合研究所 首席研究員/「次世代情報社会の実現」領域 外部専門家

「未来予想」と題し、20年前に行った音楽配信等に関する未来予想が現実になったこと、その一方で合成歌声楽曲の受容のような価値観の変容は事前に予想できなかったことが紹介され、未来予想では、価値観の変容を前提に考える重要性が議論された。 6年前からの一貫した未来予測として、人間が価値観を置く実世界の比率が物理空間から情報空間へ移行しつつあること、また、観測・予測・改変容易性が高まる未来社会で、信じられ、自由意思を保ち続けられる世界の構築が今後の課題となることが議論された。

3. 総合討論

話題提供者らと前田運営統括によるディスカッションを行った。主な論点は以下の通り。

● COVID-19による価値観の変容
  • 重篤な影響の一方で、社会への大きな刺激となり、人々の価値観を変えた。直接対面で表現することへの制限や、物理的な身体を持ち運べない社会が強制的に実現した結果、新たなコミュニケーションが生まれ、情報空間における幸福を確保する必要性が生じている。
● 生物と物理の境界条件について
  • in-situとex-situの間の境界条件に従って生物はシステムを最適化しているが、境界条件とは何かが重要。デバイスが身体に近づきつつあり、自然進化で体内に存在したものと、後天的に入ってきたものは、同居し始めると境界線がなくなっていくのではないか。
  • デバイスによって感覚器官が拡張することで芸術の世界も変容し、新たなコンテンツが生まれる可能性がある。感覚器が変わると見える世界が変容し、それに慣れることで複雑性の増したものが心地良くなる。
● 様々な分野のマッシュアップによる価値観の変容
  • 音楽のマッシュアップによって、新規の音楽体験が得られるように、今までにない分野の組み合わせの論文を読むと面白く感じる。音楽のマッシュアップが文化・芸術・科学技術へ水平展開することは興味深い。
● 予測可能性が高まる世界が到来する
  • 囲碁ではAIが打った手を人が学習し、チェスは人間とAIでタッグを組んで対戦する競技ができたように、日常生活でも予測を元に人間が行動選択するようになる可能性がある。今はまだディストピアのように感じることも、価値観の変容により当たり前に受け入れられることが起こりうる。

4. クロージング

前田運営統括より、未来社会創造事業「次世代情報社会の実現」領域と研究の公募の説明が行われた。デジタルツインはもはや当然であり、その先になにをするかが課題。次世代につながるものを残すために何に投資するかを一緒に考えたい、という抱負が述べられた。

以上

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