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コラム—低炭素社会の実現と学校教育

エネルギー環境教育で推進する低炭素教育

低炭素社会戦略センター (LCS) 特任研究員  寺木 秀一


2011年7月11日 教育新聞掲載

東日本を襲った未曾有の震災、津波に伴う原子力発電所の事故は、防災教育とエネルギー教育の持つ意義と役割をすべての国民に意識させることとなりました。小・中・高のエネルギー環境教育では、市民の科学技術リテラシーを高め、省エネルギー・省資源に結びつく諸活動を行い、生涯にわたって課題意識を醸成するとともに、その解決に向けて判断し行動できる能力を養うことをねらいとしています(エネルギー環境教育学習プラン、エネルギー環境教育情報センター2010)。

中学校の社会科では「資源・エネルギーと産業」という単元があります。ここでは、日本の安全保障の観点から資源・エネルギーの安定確保の重要性を説いたり、日本が直面するエネルギー・環境問題への理解を深めたり、持続可能な社会構築のために何をすべきかを、生徒に投げかけています。

技術家庭の「技術分野」では、持続可能な社会の構築やものづくりを支える能力の育成を重視しています。学習指導要領では、「科学技術の発展は、情報化の進展や生活環境の向上をもたらす一方、自然環境の破壊や資源・エネルギーの浪費などの問題を生じさせている実情もある」(同指導要領)と改訂されました。しかし、低炭素社会の実現や自然環境の保全には科学技術の進展が貢献していることにも気付かせ、自らの生活を改善するためには必要な情報・技術を取捨選択するよう指導することとされています。これは、今日の児童生徒が持つ、科学技術弊害論を払拭するためにも極めて大切なことです。突き詰めれば、低炭素社会を実現する教育の力も、科学技術教育の充実に依るところが大きいのです。

中学校技術科 技術分野における低炭素教育の事例

中学校1年の単元「生活や産業の中で利用される技術?環境を守る科学技術の開発?」では、以下2点の目標に向けた教育が進められています。

  • 有限な化石燃料の利用を減らして、再生可能エネルギーを利用した豊かな生活の実現をめざす。
  • 発電所や運輸、家庭などが進める温室効果ガス排出量削減のための技術の開発の現状を知る。

授業の中では、太陽光発電、風力発電、地熱発電などを取り入れている諸外国と日本の現状について比較します。次に、火力、原子力、水力及び再生可能エネルギーを利用した発電所の長所と短所について、グループで話し合い、表にまとめます。

展開としては、最近の電気自動車やハイブリッドカーの、走行性能、価格などの急速な進展について調べます。また、国産のリチウムイオン電池で駆動する軽自動車が、

  • 補助金付きではあるが、200万円を切る価格で販売されたこと(従来は2倍以上の価格だった。)
  • 車重の多くを占めていたバッテリーの改良等により軽量化を図ったこと
  • 過日の電力不足による計画停電時などの非常時に対応したAC100Vを供給できる電源端子を装備していること

などについて生徒が気づくよう誘導します。さらに、ハイブリッドカーや、水素を燃料とした燃料電池車の普及、そして再生可能エネルギーの開発には、日本の科学技術が大きな役割を果たし、低炭素社会の実現にも寄与していることを理解させます。

この記事は教育新聞に掲載されました。