低炭素社会の実現に向けた技術および経済・社会の定量的シナリオに基づくイノベーション政策立案のための提案書

LCS-FY2022-PP-09

中部圏地域間産業連関表を用いた電動自動車の生産拡大にともなう地域経済と雇用の分析と評価

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概要

 自動車産業は言うまでもなく日本の基幹産業であり、同時に部品製造など広い関連産業に影響 する裾野を持つ産業であることは周知である。一方、今後の炭素中立社会に不可欠とされる電気 自動車(EV)においては、必要な部品の構成が大きく変わり、主役が内燃機関から電動機と蓄 電池に変わり、これにより部品点数も大幅に減少することが知られている。このことは、自動車 市場の変化が、日本の幅広い産業に大きな影響を及ぼすことを示し、特に雇用への影響は慎重に 考えねばならない。自動車産業の製造工場は全国に点在しているが、特に中部地域には部品製造 業も含め集中しており、自動車の電動化の影響はこの地域に強く表れるものと予想される。この ような産業の連関構造を念頭に置いた地域経済への影響を見るには県間産業連関表が適切な方法 であるが、これは2005 年を最後に作成されておらず、今後の分析には新たな推計作業が必要で ある。

 本研究では、自動車産業に焦点を当て、EV 化の地域への影響を見るため、最新である2015 年 県産業連関表と既存の2005 年県間産業連関表から2015 年中部地域9 県の地域間産業連関表を推 計し、さらに乗用車部門を「従来型エンジン車」「HV」「PHV」「BEV」「FCV」に細分化したうえ で、将来の乗用車市場の車種構成に変化が生じた場合の地域・産業別経済影響と、地域・産業別 雇用への影響を評価する。

 結果、「PHV」「BEV」「FCV」については、現在製造を行っている三重県、愛知県とその他全 国の3 地域では、これらの生産が伸びる反面、産業全体を見た場合には現在部品を提供している 周辺産業にはマイナスの影響が表れ、愛知県では最大で0.81 兆円生産額の減少となった。これは 総減少額の52.84%を占めた。「その他全国」と「三重県」でも産業全体では減少が生じ、その額 は0.45 兆円と0.20 兆円となった。

 「PHV」「BEV」「FCV」の最終需要の増加による産業構造変化は雇用にも影響する。全体では既 存の自動車および自動車関連産業の就業者数は11.3 万人の減少の一方、これら新型車の生産拡大 により「産業用電気機器部門」、「その他の電気機器部門」など関連技術分野で約7.1 万人の新たな 雇用が生み出され、差し引きでは約4.1 万人の雇用が減少する可能性があるという結果になった。

 ただし、本提案書では自動運転車など自動車電動化の進展と情報産業の進展による新たな情報 サービス業進展の寄与は含まれていない。雇用への影響は新たな情報サービス産業の拡大で補償 される可能性は十分に考えられ、そのような新たな市場の可能性を成長させる産業政策の必要性 が示唆されている。

提案書全文

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