開催概要
- 日時 2017年11月26日(日)13:15~15:30
- 会場 テレコムセンタービル 8階会議室A (お台場)
- 企画提供 科学技術振興機構・東京都理化教育研究会
プログラム
- ● 銀河系の地図を作る
- 本間 希樹 国立天文台 水沢VLBI観測所 所長・教授
- ● 光合成の仕組みに迫る
- 沈 建仁 岡山大学 異分野基礎科学研究所 副所長・教授
- ● 光ガン治療に取り組む
- 小川 美香子 北海道大学 大学院薬学研究院 教授
- ● 講演者との対話
レポート
21世紀は光の時代と言わるように、光の重要性はますます高まっています。また、サイエンスに限らず様々な分野において、限界を超えて新たな地平を開くことが私たちに求められています。光はそのために欠かすことのできないツールです。今回の光科学シンポジウムは「越境する」に焦点をあてて、物理、生物、化学の分野で光を用いて新しい取り組みにチャレンジされておられる三名の先生方に最先端の研究をわかりやすく、また楽しくお聞かせ頂きました。
また、講演会の最後には、昨年と同じく「参加者と講演者との対話」の場を設けました。それぞれの講演内容について、相当本質に迫る質問をいただいたほか、「若い時、どのように勉強に取り組んだか?」といった中学生からの質問もあり、講演者の先生方には汗をかきながら真摯にお答えいただきました。
1)銀河系の地図を作る 本間 希樹
国立天文台の本間 希樹(ほんま まれき)先生は、日本の電波天文学をリードされている研究者の一人で、地球規模に遠く離れた電波望遠鏡群を用い、三角測量の原理で銀河系の3次元構造を明らかにしようという研究に取り組んでおられます。
講演では、電波も光も同じ電磁波という話に始まり、電波望遠鏡を用いた測定の原理から最新の成果、取り組み中の研究などについてお話しいただきました。銀河系の星の動きを観測することによって、渦巻き状をなす銀河系の回転速度が従来の値より1割程度速いことが判明し、目には見えないものの質量のあるダークマター(暗黒物質)が従来想定されていた以上に銀河系にも存在することが分かってきました。銀河系の中心にはブラックホールが存在すると考えられており、現在、その直接撮像にも取り組んでおられます。
2)光合成の仕組みに迫る 沈 建仁
岡山大学の沈 建仁(しん けんじん)先生は、葉緑素の光合成がどのような仕組みで生じるのかを研究されておられる世界的に著名な研究者です。
講演では、太古からの地球環境の変遷に始まり、光合成の原理、放射X線を用いた構造測定の原理と実際の研究状況などをお話しいただきました。
光合成は、太陽光のエネルギーを用いて水を酸素と水素に分解し、光合成膜の内側と外側の水素イオンの濃度の違いを作るところから出発します。
その機能を持つタンパク質PSIIをらん藻から抽出して結晶化し、兵庫県にあるSACLAと呼ばれる放射光X線を用いて光照射に伴う構造変化を精密に観測してそのメカニズム論争に決着をつけました。
鍵となるのはPSII中の歪んだいす構造と呼ばれる部分で、光エネルギーによって生じる絶妙な分子結合の変化が酸素分子と電子を生成するとのことで、人工光合成の開発にもその知見が生かされています。
3)光ガン治療に取り組む 小川 美香子
北海道大学の小川 美香子(おがわ みかこ)先生は、「人に優しく、がんに厳しい」光免疫治療について、特に薬学研究の立場から研究に取り組んでおられます。
この手法は、小川先生が米国の国立衛生研究所(NIH)に滞在されていた時に発見されたもので、これを契機に当時上司であった臨床医の小林久隆先生を中心とするNIHの研究チームが治療効果に優れた手法として研究を開始され、今では優れた臨床効果が実証されるまでに発展しています。
その発見の経緯から、樹状細胞の活性化に根ざした免疫作用を含めた治療効果、より優れた薬剤の開発を目指した現在の研究などについてお話しいただきました。また、発見の元となった蛍光イメージングについては実演を交えてお話しいただくなど、わかりやすく楽しい講演でした。
これまでのサイエンスアゴラ光科学シンポジウムの報告(動画あり)は下記をご覧ください。
2016報告 『限界に挑戦する光科学』
2015報告 『「ひかり」を通してみる宇宙・時・私たちの歩みと未来』
<お問い合わせ先>
国立研究開発法人 科学技術振興機構 戦略研究推進部
グリーンイノベーショングループ
電話:03(3512)3531