X線回折や電子顕微鏡の実用化によって原子サイズ(オングストローム,10の10乗分の1メートル)の分解能での物質の構造解析が容易に行われるようになりました.最近では,空間的情報に加えて,物質の遷移を分析するため時間軸についても高分解能を持った方法が数多く考案されています.例えば,超短レーザーパルスで生成した電子を約100 keV に加速して電子線回折を行う,超高速電子回折 [Ultrafast Electron Diffraction (UED)] 法が開発され,ごく最近,100フェムト秒(10の13乗分の1秒)程度の時間分解能で固体の融解現象における構造遷移が観測されています.しかし,化学,生物学分野で重要となる電子状態を含めた物質遷移の研究では,従来の時間分解能では不十分であり,さらに高い時間分解能で現象を追跡する新しい手法の開発が望まれています.そこで本研究では,高強度赤外レーザーを用いた原子・分子の新しい超高分解能4次元時空イメージングの理論を開発します.レーザーにより誘起されるイオン化電子の再衝突過程を利用して,空間的には原子サイズ(オングストローム),時間的には分子内電子の軌道周期(アト秒領域,10の15乗分の1秒以下)程度の超高分解能を目標とします(図1).これにより,電子状態まで含めた原子レベルでの物質の状態遷移の研究という新しい分野の開拓をすると共に,光と物質の相互作用についての深い理解を目指します.
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