本研究では超短パルス光技術をベースとしたテラヘルツ光テクノロジーを用いることで、テラヘルツ領域に現れる偶数スピン系の磁気遷移を高精度に観測し、また高強度光源を用いて高速で駆動する手法の開拓を行います。ここで取り扱うテラヘルツ領域( 0.1-10THz )とは光と電波の中間的領域であり発生や検出およびその電磁波応答の解釈が非常に難しい周波数領域です。なぜなら電気的電流Jと光学的誘導電流dD/dtが誘電応答においてそれぞれ同程度に寄与するため、高低周波数極限の取り扱いができません。しかし物性において重要な誘電応答が数多く見られることから多くの研究が盛んに行われています。一方磁気的応答に目を向けてみると、低周波の磁気応答Mと高周波の磁気光学応答Pxyのちょうど谷間の周波数領域にあります。ただし磁気共鳴においては2価鉄など偶数スピン系の磁気共鳴がゼロ磁場でもテラヘルツ領域に現れます。この遷移は医療応用などが可能であるだけではなく、共鳴周波数が高いゆえに振動子強度が大きく高温でも基底状態にありさらには高速で駆動する可能性をもっています。このような共鳴はこれまで強磁場下でのESR測定が行われてきました。しかしテラヘルツ領域での高精度分光やNMRでは標準的に行われている高出力パルス光源を用いた非線形分光が可能になれば、新しい偶数スピン系の汎用センシングおよびスピンの超高速制御への開拓につながります。このような状況を踏まえて近年の超短光パルス技術を駆使したテラヘルツ技術を振り返ってみると、非同期光サンプリング技術や共振器構造による磁場増強、高強度テラヘルツ光発生技術など、テラヘルツ磁気共鳴を励起するに適合した技術が急激に進展しています。そこで本研究ではまず線幅の細いテラヘルツ磁気共鳴を高精度に検出しテラヘルツESRの測定スキームを確立することを目指します。その上で高強度テラヘルツ光を開発し、高周波数の磁気遷移を直接励起することで高速でスピンを駆動する方法論の確立を目指します。
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