*** 本研究領域は終了いたしました ***
基本方針・考え方
国府田 隆夫

((東京大学名誉教授))
(元日本女子大学 理学部長)

 今から6年前の1997(平成9)年に、『状態と変革』というキーワードを共通理念として、この「さきがけ研究21」領域が発足しました。 今でこそ機構改革とか構造改革という言葉が世に溢れていますが、 発足の当時は『変革』という言葉にはまだ奇異を衒う響きがあり、 まして着実で連続的な進展を伝統とするわが国の科学・技術分野の新領域のキータームとしては、この言葉は少なからぬ違和感を周囲に与えたようでした。
 しかしながら、 実のところ、原子、分子など物質構造の基本要素においてすら、 原子核とそれを囲む多数の電子・スピン系の多自由度状態には、 想像以上に複雑な状況がその内部に秘められています。 常識的には安定とみなされている『状態』でも、 ごく僅かな外部摂動によって、 予想外の新しい状態に移る例が希ではないのです。 まして、 莫大な数の原子、分子からなる無機・有機物質の安定状態は、 様々な潜在的勢力の間の協力・競合効果に基づいて成り立っているのですから、 ひとたびその平衡関係が破れると、 既存の概念では予想できない別の安定状態が出現する可能性が少なくないはずです。 しかし、 そのような潜在的状態の存在を見通して、 適切な操作によって“状態の変革”を実現するには、 理論的にも実験的にも常識破りのユニークな発想と大胆不敵なチャレンジが不可欠です。 これまでのわが国の物性研究では、 この種の挑戦的スタイルの研究が十分ではなかったように思います。 幸い、 この「さきがけ研究21」では、 このような意欲的研究を自由に行う3年間の研究援助が保証されていますから、 上述のようなチャレンジを試みるには、 まさに打ってつけの態勢です。
 この特徴を最大限に活かして、 「状態と変革」という領域名に恥じない学際的研究の場を開拓したいというのが、 第1期から3期までの総計38名の研究者たちと、総括と8名のアドバイザーの方々、 それに事務所職員を含む領域関係者の変らぬ願いであります。
 20世紀の掉尾に当たる三年前の秋に10名の第1期研究者が、 ついで21世紀に入った一昨年と昨年に第2期研究者20名、 第3期研究者8名が研究期間を終了し、 多くの分野でさらなる挑戦と飛躍を続けていて、本領域の理念を具体的な形で内外に提示しつつあります。 この間、 年2回の領域会議を通して、 各研究者間に異業種間交流と学際的協力の機運が自発的に生じ、 研究分野についても“状態と変革”の気運がもたらされたことも、注目に値する成果のひとつでしょう。 今後も本領域を巣立った38名の研究者がそれぞれの課題について 常識破り的な発想を模索しながらさらに高いレベルでの“状態と変革”への挑戦を続けているところです。

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