水素は後周期遷移金属と非常に強く相互作用することが知られている。ここでは、水素エネルギー利用に有用な材料として合金ナノ粒子に着目する。合金は単一金属に異種金属を混合することで、新たな特性を付与できるばかりではなく、単純金属になはない機能が発現することが期待される。本研究では、化学的還元法に基づく液相ボトムアップ法により、合金の組成・構造を精密にコントロールし、水素吸蔵、水素透過分離、触媒特性などの水素エネルギー利用に有用な機能性合金ナノ粒子の創製を行う。さらに、水素の量子トンネリングなどナノメートルサイズの金属中の水素に特異的な新現象の探索を行う。

（1）現代の錬金術　-ナノ合金による元素模倣-
　合金の持つ性質を根本から理解することにより、優れた水素に対する機能性を獲得する為の設計の指針を得る。原子レベルで精密に設計した合金の性質を詳細に調べ、ある元素が原子からナノ粒子を経てバルクへと変化する過程での電子状態を知ることが出来れば、あるターゲット元素の機能を模倣できると考えられる。例えば、ある電子数を有する合金がそれと同数の電子数を持つ元素と同等の性質を持つとすれば、優れた水素吸蔵特性を示すPdをRhとAg、CuとAu、CoとAuなど、高い触媒活性を示すPtをIrとAuの組み合わせによって模倣できると考えられる。本年度は、バルクにおいてほとんどすべての組成で相分離型合金構造をとることが知られているRhとAgの固溶体合金の作製を試みた。原料のRhとAgの金属塩の溶液に還元剤であるNaBH₄の溶液を滴下すると、AgとRhの組成が粒子によって異なる不均一な合金ナノ粒子が生成した。NaBH₄溶液に金属塩の溶液をスプレーする逆スプレー法（特許出願中）により粒子を作製すると、粒径分散の小さい合金ナノ粒子が得られた。EDX測定を行ったところ、一粒子内でRhとAgが均一に混合した合金ナノ粒子が生成したことが確認された。これは、バルクには存在しない新たな合金である。