戦略的創造研究事業「生体分子の形と機能」研究領域(研究総括:郷 信広)における研究テーマの一環として、沈 建仁研究者(平成14年度新規採用)らは、水を分解し酸素を作り出すラン藻の光合成系II膜タンパク質複合体の立体構造を解明し、その成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS, 2003年1月7日号)に掲載されました。
光合成系II複合体は、太陽の光エネルギーを吸収し、生物が利用可能な化学エネルギーに変換すると同時に、水を分解し酸素を放出する反応を触媒しています。地球誕生直後の大気は嫌気状態にあり酸素がほとんどありませんでしたが、今から約27億年前に酸素発生型ラン藻の出現により水が分解され、大気中に酸素が蓄積するようになり、そのおかげでオゾン層もでき、地球上で生命が繁栄するようになったと言われています。酸素を作り出す光合成系II複合体は17種類以上のサブユニットを含む巨大な膜タンパク質複合体であり、結晶化が困難であったため立体構造が不明でしたが、沈らは長い研究の末その結晶化に成功し立体構造を解明しました。これにより光合成におけるエネルギー移動、電子移動、水分解・酸素発生反応の詳細な機構が明らかになり、光エネルギーの有効な人工利用に拍車がかかると期待されています。
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